所有している弓の性能が悪いと、楽器自体をとんでもなく勘違いして、性能の悪い楽器や不健康な楽器を選んでしまうのです(実際にそのような人はとても多いのです)。

 具体的には、弓の性能が低いと「理にかなった摩擦力」を原理的に発揮できません。するとどうしても表面的な薄っぺらな演奏しか出来ないのです(本人は微塵もそう思っていないところが、その特徴です)。すると、楽器も表面的な鳴りの(深い音に堪えきれない)楽器(多くは、薄っぺらな不健康な楽器だったり、製作自体が未熟だったり)を好んで選んでしまいます。

 このような楽器と弓からは、次のような悪い結果が生まれます。
・小さな部屋ではいい感じなのに、ホールとかでは音が小さい。
・演奏の表現力が乏しい。訴えかけるものが小さい。
・音が遠くまで届かない。音に芯が無い。
・弓がプルプル震えてしまう。
・楽器が不安定で、指板下がりなどが激しい。
・駒寄りが弾けなく、どうしても指板寄りを弾く癖がある。

 高価な楽器を購入する予定の方は、必ず「良い弓」の購入から実行してください。そうしなければ、良い楽器は絶対に理解できないのです(まぐれで購入できることはありますが、その逆も多いのです)。もっとも、酷い性能の弓を何100万円も出して購入している人の全ては、「良い弓」を所有していると自信をもっていますから、「楽器を購入する前にまずは良い弓を・・・」と説明しても意味が無いのですが・・・。

追記
 少し前にある若い製作者(とても優秀な人です)が自分の作った楽器をもって私の工房に来たのです。ところが彼は弓の性能について理論的な事を知っていませんでした(それが普通なのですが)。彼の楽器は一見発音がとても良いのですが、性能の高い弓で演奏すると音が飽和してしまうのです。「弓の性能の理論と楽器の鳴りかた」の物理的な原理を知らないと、優秀な技術の製作者でさえも気がつかないものなのです。それが技術者でなく演奏者側となると、ますます気がつかないはずです。

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