先日、カントゥーシャ作のチェロを購入してくださった方に、「この楽器の音がなぜ良いのか?」という説明をしました。

 それは、「楽器の構造の理論がきちんとしていて、さらに高精度の技術でそれを実行できている」からなのです。感覚論の製作では無く、根拠のある技術論なのです。

 楽器とは、 極論すれば振動板(体)です。そしてその振動板とは、振動しやすいような「適度」な厚み(=薄み)が必要なのです。厚すぎては振動しにくくなって音が固く詰まった感じになりますし、薄すぎては共鳴点が多く出てしまい箱鳴りとかヴォルフ音が出てしまいますし、楽器自体も壊れやすくなります。

 このように、振動板(体)すなわち楽器とは、「振動しやすく」かつ「壊れにくく」と言う、ある意味矛盾するような要求を求められているのです。

 ここで重要な考え方が、「ハガキの理論」です。ハガキとはとても薄い紙なのですが、曲げても折れません。それはハガキの厚みが均一なので、曲げた時の力が均一に分散さて、ある一カ所に集中していないから、ハガキは折れないのです。

 これは楽器の製作理論でも全く同じなのです。弦によってかかる大きな力を、理論的に、そして高精度な製作技術によって分散させることで、ある程度の理想的な薄さの(薄すぎるという意味ではありません)木材でも、強くなるのです。そして長年にわたって、トラブルが出ないのです。

 さて話しがもどって、チェロを選ぶときの一つのポイントとして、表板の隆起の歪みをチェックすると良いです。というのは、チェロはヴァイオリンと比べて、大きさの割に厚みがとても薄いのです。すなわち、構造的にとても弱い楽器なのです。だから製作が下手だと、または状態が悪いと構造的にへたってしまって、音が悪くなってしまうのです(そのへたったチェロの音を、発音が良いと勘違いしている人も多いです)。そういう楽器は、箱鳴りがしたり、ヴォルフ音が酷かったり、または部分的に詰まるような音がします。壊れかけた状態のチェロも多く存在します。

 または新作で作られて間もないのに、それも厚めの響板なのに、製作が下手なために(または製作の理論が判っていないために)表板が凹んでいるチェロも珍しくは無いのです。

 さて具体的にはf孔の羽根の部分を観察してください。この部分が極端に飛び出していたり、または極端に凹んでいると、表板が大きく歪んだ証拠なのです。詳しいことは私のQ&Aにも書いていますのでそちらをご覧ください。これはけっこう重要なチェックポイントの一つです。

 もちろん、このチェックは数多いチェックポイントの僅か一つでしかありませんから、これだけで良いチェロを選べるという、そんな甘い話ではありません。

関連記事: