マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:アゴ当ての金具の種類と、その特徴を教えて下さい。

A:アゴ当ての金具の種類は、基本的に「基本形」、「Hillタイプ」、「特殊タイプ」の3種類に分けることができます。しかし、さらに詳しく述べると、その他にも材質やメッキの種類、品質などによって様々な種類の金具が存在します。今回はそのようなアゴ当て金具の形と、特徴について述べてみましょう。但し、今回はアゴ当てそのものの形に関しては述べません。

アゴ当て金具の基本的な種類
基本形金具
 この金具は一番多く見かけるタイプです。その特徴は、構造がシンプルなため「軽い」ということと、それに伴い「低価格」という事が挙げられます。
 これはアゴ当ての金具だけの話ではありませんが、弦楽器の場合には一般的に、強度が弱くない範囲で軽量であることが良い音に繋がることが多いのです。部品による振動エネルギーの内部ロスが低く抑えられ、振動板に効率よく振動エネルギーが伝わるからと考えられます。それは特に、高倍音(中〜高モード)の振動に於いて顕著に現れます。すなわち、明るい抜けのある音(遠くまで届く音)になり、さらに発音するまでのレスポンスが良くなるのです。

 このように、「基本形金具」は良いことずくめのように思えますが、欠点もあります。それは、写真中の「○」で示している部分の角度調整が難しく、アゴ当てを正しく装着するためには金具を外し、微調整しなければならないということです。すなわち、購入したアゴ当てをそのまま装着できないのです。
 また、金具の強度が弱いために、使用している間に金具が変形してしまい、アゴ当ての角度が変わってしまうというトラブルが生じてしまうことです。
基本形金具の中の特殊タイプ
 上記の基本形金具の特殊タイプとして、「金メッキ」の金具や「チタン製」の金具も存在します。金メッキ製の金具は、性能としては上記の「基本タイプ」と全く同じですが、少々高級感があります。
 特筆すべきは「チタン製」でしょう。この金具は最近発売されたもので、見た目は「基本タイプ」とほとんど変わらない味も素っ気もないものですが、チタン素材の「軽い割に、とても強い」という特徴を生かしたハイテク金具です。基本タイプの金具が15gに対してチタン製の金具は5gと、非常に軽量化に役立っています。その上、強度も十分なのです。但し、欠点としてはその価格です。基本形の金具が数百円で購入できるのに対して、チタン製はその30倍(注:仕入値での比較)もの高い価格になってしまいます。もっとも、アゴ当ての金具だけを10g軽くしたところで、それ以外のセッティングを煮詰めていなければ、その効果は現れません。ギリギリまでにセッティングをしている楽器において、初めてその費用に見合うだけの効果が現れるというくらいに思った方がよいでしょう。価格が高いからといって、決して魔法の金具というわけではありません。

Hillタイプ
 この金具の名前は、ロンドンの世界的な楽器商「Hill商会」からきています。その呼び方は、正確には「Hillモデル…」と言うのが正しいです。さてこの金具の特徴は、写真のように大型でガッチリしていることです。金具のもっとも力の掛かる上下の塊部分が無垢の金属でできているために、長年の使用に於いて変形してしまう事がありません。すなわちアゴ当ての角度が徐々に変わってしまうというトラブルが生じにくいという特徴があるのです。また、高級感があるということも特徴でしょう。その他の特徴としては、金具の裏板面に接する部分が最小限で済むために、裏板のニスを傷めにくいという特徴もあります。
 このHillタイプにもいくつもの製品が存在し、クロムメッキの品質が違ったり、金メッキが施されていたり、または高級品になると無垢の銀が使われていたりというものも存在します。
 欠点としては、その構造上重くなってしまうということです。従って、まだ製品としてはありませんが、先に述べた「チタン製」の製品が発売されると、Hillタイプのこの欠点は克服されることになるでしょう。その他の欠点としては、演奏者の中にはHillタイプの金具が喉に当たってしまい、痛いという人もいます。

特殊タイプ
 これは上記2種類以外の全てです。多くの場合、特許をもったアイデア製品であることがほとんどです。右写真のように1本脚で固定するタイプ、下写真のようなHillタイプを改良したものなど、たくさん存在します。
 これらについては、その種類があまりにも多すぎて、それぞれの特徴を述べることは不可能ですし、また装着の数自体が少ないので、そのアゴ当て金具の特徴を正確に把握できていないというのも事実です。

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