マイスターのQ&A

2019年1月15日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:楽器の価格は何で決まるのですか?

A: 楽器の価格は下は数万円のものから、上は数億~数十億円のものまで存在します。一体なぜ、そんなに価格差があるのか?、または価格差ほどの性能差もあるのか? 不思議に思われている方がほとんどではないでしょうか?

 

楽器の価格を決めるものとは

 楽器の価格を決める要因には様々なものがあります。もちんろん通常の工業製品の様な、「原材料費」とか「製造経費」とか、「流通、販売経費」などによっても価格は変わってきます。しかし、楽器の価格(特に古い楽器)に一番影響するのは「ラベル」です。
 身も蓋もないことをもう一度書きますが、「楽器の価格はラベルで決まる」と言い切っても間違いは有りません。楽器の性能で価格が決まるわけではないのです。

 

なぜラベルで楽器の価格が変わるのか

 なぜラベルで楽器の価格が変わってくるのかというと、それは「価格とはどうやって付けられるのか?」という逆の立場、すなわち販売者側の立場から考察すると判りやすいです。
 ある製品をA顧客は1,000万円で買いたい、一方、B顧客は1億円で買いたいと言ったら、どちらに売りますか? 当然、B顧客に売るはずです。すなわち、その製品の価格は1億円になるのです。
 このように、一般的な資本主義の経済論理下では、「価格とは、いくらなら売れるか?」という単純な原理が基準になって決定されます。だから弦楽器の価格も、「いくらで売れるか?」で価格は決まるのです。
 そして、残念ながら「いくらで売れるか?」に大きな影響を与える要因は、「ラベル」なのです。本来なら「性能」であるはずなのですが、演奏者も含めてほとんど人は「見えない真実(性能)よりも、見える効能(ラベル)」に安心感を覚え、それを求めます。そして、高価な楽器が良いものだという、(悪?)循環によって、その価格はさらに高くなっていきます。

 

「価格」や「ラベル」と性能は関係ない

 こう言うことを書くと、この業界、またはプライドの高い演奏者から反感を買うのは承知の上で書きますが、楽器の「価格」や「ラベル」と、その性能は関係ありません。全く関係ないとは言いませんが、あまり(ほとんど?)関係ありません。

 例えば、最近発見されたレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画の値段は100億円もするそうです。ところが、それがレオナルド・ダ・ヴィンチの本物と鑑定される前には、その画は骨董市で2,000ドルだったらしいのです。結局、絵画の価格も同じです。内容そのものではなく、ラベルで価格が決まるのです。
 またはあるお宝鑑定番組で、「本当に良い品物です。しかし、残念ながら欲しい人がいないので、残念ながら値は付かないのです。家宝として大切に飾ってください」みたいなコメントもよく聞きます。価格なんて、そんなものなのです。

 演奏技術力の高いプロの演奏者なら、楽器の「性能」が判った上で、そういう「ラベル」の楽器を購入しているのだろうと思われるかもしれませんが、現実はそんな甘い話ではありません。だから、昔から「本物、偽物」とか、「だまされた」とか「詐欺」とか、「裁判」とか、「胡散臭い業者」とか、「ディーラーみたいな先生」とか、飽き飽きするほどのゴシップ話で満ちあふれているのです。
 例えば「弓の性能」に関しても、楽器と全く同じです。ラベルを信じて、「ペコペコな低性能な弓」を、ありがたがって使っている(才能があるが、とても残念な)演奏者がとても多いですから。

 

それなら何を信じるべきか

 「それなら何を信じて楽器を選んだら良いの?」と尋ねられて、私が「こうこう」と言うわけがありません。また、言えるわけもありません。私はネット上の親切おじさんではありませんし、また、弦楽器世界の代弁者の資格を持っているわけでもありません。
 「人として信頼できる業者(専門家)を探し出し、その人との信頼関係を構築して、そしてその中で「縁」をたぐり寄せる」としか言いようがありません。

 素直で常識的な眼で、現実を見つめたら、何となく見えるはずです。相手(業者)が筋が通ったことを言っているのかどうかは?


 

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