マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:私は楽器ケースを持ったまま、自転車に乗らなければなりません。しかし、もしもの場合に、楽器のことが心配です。楽器にとって安全なケースを教えてください。

A:これまでにも何度か「楽器のためのケース」の事は書いてきました。”JAEGER”のケースを頂点として、GEWAのケース(GEWAならばどれでも良いというわけではありません)、国産の”東洋V-38”など素晴らしいケースはいくつかあります。そしてこのような素晴らしいケースに楽器を入れることで、自分自身に「楽器を守ってあげている」という自覚が生まれるのです。すると、今まで意識しなかったような「楽器の小さな声」が聞こえてくるようになります。これはすなわち、楽器のメンテナンスを良好に行えるという事だけに止まらず、演奏上においても音色に対する新たな意識が生まれてくるのです。

 さて、具体的にどのようなケースがあるのかは以前にも書きましたのでそちらを読んでいただくとして、今回は「自転車に乗る」ということをキーポイントとして、ケースについて考えてみましょう。

自転車に乗る危険性
 まず最初に言わなければならない事は、楽器ケースを持ったまま自転車やバイクに乗ることの危険性の大きさです。もしも転倒、衝突したときには、歩いているときとは比べものにならないほどの大きな衝撃が加わることでしょう。従って、楽器を持って自転車やバイクに乗るべきではありません。
 しかし、そうと分かってはいても、生活環境からどうしても自転車やバイクに乗って駅まで行かなくてはならないなどの場合もあります。こればかりはしょうがないことです。あとは、いかに危険性を少なくするかを考えるべきでしょう。 
 自転車にケースを持って乗っていて危険なのは、不安定になるからです。これはケースを肩に斜め掛けした場合、または自転車かごに立てかけた場合にそうなります。
リュック型のケース
 そこで私が紹介するのは「リュックサック型の背負い方」です。これは日本ではまだ馴染みがないのですが、ドイツなどでは下写真のように楽器ケースを背負っている人を時々見かけます。事実、ドイツ製であるGEWA製のケースには、このような背負いベルト(オプション)を掛けるためのフックが付いているものもあります。
 この背負い方は、一見したところ大したことないように感じますが、実際に背負ってみると感心するところがあります。私も実際にヴィオラを背負って、オーケストラの練習へ通っているのですが、そこで感じたことを書いてみます。

メリット
1・背負った楽器ケースの高さが絶妙なので、背負ったまま電車の座席に腰掛けても違和感がありません。従って、自転車に乗った場合でも安定して乗ることができると考えられます。もちろん両肩で支えるので、自転車に乗っているときにケースがほとんどぶれることもないのではないでしょうか。
2・両手が自由に使えます。私の妻は子供を連れて練習へ行きますが、このリュックタイプを使うようになってからは、子供を抱っこすることもできるようになり、自由度が増えたと言っています。
3・背中にケースが張り付いているので、混雑した駅構内を歩くときに、楽器ケースがすれ違いの人にぶつかることが皆無になります。私が実際に、このようにして楽器を持ち歩いていて、一番ありがたいと感じるのはこの事についてです。
4・一見したところ、混雑した電車などでは周囲の迷惑になりそうですが、実際にはケースが背中に密着し、また飛び出していないので、特にこの背負い方だから迷惑になるというわけではありません。
5・ケースの重さが少し緩和されます。
デメリット
1・楽器が自分から見えないので、万が一背負いひもが外れてしまったとき等の事を考えると、不安な時があります。
2・雨が降っているときには、ケースが見えないだけに、雨が降りかかりやすくなってしまいます。またヴィオラケースの場合にはヴァイオリンケースよりも一回り大きなために、さらに塗れやすくなってしまいます。このような時には、ケースにカバー(またはビニール袋)を掛けてしまった方がよいでしょう。

 このように背中にケースを背負う方法は、自転車やバイクに乗る方はもちろんですが、一般の方にもメリットがあるのです。GEWA製のケースを既にお持ちの方は、オプションの背負いベルトを購入して(自作でも可能です)、一度試してみてはいかがでしょうか?
 余談ですが、最近ではチェロのハードケースにリュック・ベルトを取り付けて、背中に背負う事もできます。しかし、これは少々無理があるように感じます。ケース上部が頭上より遙かに飛び出してしまうので、入り口などでぶつかってしまうからです。

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