マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:チェロのテールピースの重さは、製品間でどのくらいの差がありますか?

A:以前のQ&Aでも述べましたように、部品(ここではテールピース)の質量は、楽器の音色に大きな影響を及ぼします。しかし、個々の楽器の製作キャラクター、品質、健康状態、使用弦、目的とする音質などの要素によって、その影響の出方も変わってきますので、どのような質量のテールピースが良いのかという単純な答えは出ないのです。

現代楽器の音と部品の質量
 但し、現代ヴァイオリン族(チェロも含めて)の目指している音が、良い悪い、好き嫌いは別として、「明るく、大きな音で、大きなホールでも届く音。しかし、耳障りな音は極力抑えて」という流れであるということは疑いないことでしょう。そしてそれを前提として考えると、楽器に装着する部品は「強度が落ちない範囲でできるだけ軽く」という物が良い結果に繋がるということが多いのです。あくまで確率的なものですが。
 この理由は、部品をできるだけ軽くした方が、内部エネルギーの損失を抑え、弦の振動を効率よく響板の振動に伝えることができるからです。またそれ以外にも、どちらかというと次に述べる効果の影響力が大きいのですが、楽器の部品を軽くすることによって、楽器の周辺部の振動をさせやすくすることができるのです。こうすると、響板の高周波定常波の振動が起きやすくなり、すなわち弦の高倍音成分が出やすくなるのです。これはすなわち、「明るい音」が出やすくなる事を意味します。
チェロのテールピースと質量
 チェロのテールピースは数多く存在しますので、とりあえず私の手元にあった3種類のテールピース(テールガット含む)の質量を測ってみました。これらのテールピースはごく一般的なものなので、ほとんどの方もこの3種類のどれかを使用されているのではないでしょうか。

 手前からWITTNERメタル(軽金属製)、AKUSTIKUS(プラスティック製)、アジャスター内蔵木製(黒檀製)になります。

WITTNERメタル 101.6g
AKUSTIKUS 76.4g
アジャスター内蔵黒檀製(未加工) 97.2g
アジャスター内蔵黒檀製(裏堀加工) 73.0g
WITTNERメタル
 このテールピースは軽金属製でとてもしっかりとした作りです。質量も予想していた通り、この3種類の中では最大でした。しかし、私が想像していたよりは軽かったというのが私の率直な感想です。このテールピースの最大の特徴は、値段がある程度安く、しかし作りがしっかりとできていることです。構造上もっとも力の掛かるネジ(アジャスター)部分とテールガットの付け根部分の作りが良く、長年使っていてもトラブルが起きにくいというのがこのテールピースの特徴です。このような意味から低〜中級楽器に使われていることが多いようです。
AKUSTIKUS
 このテールピースはプラスティック製です。その特徴は、「軽さ」と「値段の安さ」です。従って、その「軽さ」という要素を求められて上級楽器に利用されますし、「低価格」という要素を求めた場合には低価格楽器に用いられるのです。従って、非常に高い楽器から安い楽器にまでオールマイティーに装着されるテールピースです。
 このテールピースの欠点は、見栄え(製品の金型の作り)の悪さと、テールガットが針金であるために楽器(ウンターザッテル部分)が傷みやすいということでしょうか。このテールピースは軽いので有名ですが、実際に質量を測ってみて、私が想像していたほどの軽さではなかったのは意外でした。
アジャスター内蔵黒檀製
 木製のテールピースの最大の特徴は加工を施すことができるということです。逆の事を言えば、加工の有無、加工の程度、技術力によって全く別物の製品になる可能性があるのです。従って、一言で製品のキャラクターを述べることは不可能です。
 このテールピースの長所は見栄えの良さでしょうか。プラスティックや金属製のテールピースよりも楽器に馴染んで、楽器の雰囲気を壊しません。これは一見音とは関係ないので軽視されがちですが、長期の間には間接的に、確実に音にかかわってくる重要な要素なのです。
 欠点としては価格が他の2製品と比べて非常に高いということがあげられます。従って高価な楽器に用いられることがほとんどです。また、他の製品と比べて構造的なトラブルが多いというのも事実です。
 さて、このアジャスター内蔵黒檀製のテールピースは加工によって性能が異なると書きましたが、その加工の一例として「裏堀加工」があります。私の工房ではこの種のテールピースを使う場合には、裏堀加工を施すことがほとんどなのですが、強度が落ちない範囲で軽量化したアジャスター内蔵黒檀製のテールピースの質量は、軽量で有名なAKUSTIKUS(プラスティック)よりもさらに軽くなるくらいなのです。
最後に注意
 何度も述べますように、単純に軽いテールピースの方が優秀と言っているわけではありません。例えば、明るい音の楽器に軽いテールピースを装着してしまうと、音がギスギスしてしまって逆効果になる可能性が高いです。弦との相性もあります。従って、部品単体ではなく、楽器の調整も含めて部品を考えてください。そのためには可能な限り技術者と話し合いをして、自分の楽器にとって最良の部品を納得した上で装着すべきでしょう。

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