航空ベニアの由来と、その利用について

2017年1月9日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 

 私の師匠の故 J.カントゥーシャ氏のヴァイオリン製作では、様々な精巧な手作の道具類が用いられます。その中で色々な道具、治具に「航空ベニア(Flugzeug Sperrholz)」を活用しているのもひとつの特徴です。私はカントゥーシャ工房にて初めてこの航空ベニアという板を知り、そしてそれで作られた様々な道具類の精度の高さに驚いたのを今でも鮮明に覚えています。

航空ベニアの特徴

 日本でよく見かける合板と言えばラワン合板とかシナ合板です。大体は3~4mm厚の板を貼り合わせた合板です。例えば12mm厚みのラワン合板の場合、4mm厚の3枚の板が、木目が直行するように貼り合わさってできています。
 ところが航空ベニアの場合には、とても薄いフィンランドカバ材の板を何層にも貼り合わせて作り上げられます。例えば下写真の上側が航空ベニアなのですが(下側は日本で手に入れる事ができる通常のバーチ合板)、航空ベニアは一層の板の厚みが1mm弱の板を木目が直行になるように何層にも貼り合わせてできているのです。このために、精度も強度も高いのが特徴です。しかし構造が複雑なために、価格もかなり高いです。また、日本では入手困難というのが最大の欠点です。


航空ベニアを用いた道具の一例

 下写真は、カントゥーシャ氏の製作の最大の特徴のひとつ、「分解式フォルム」です。このような複雑な構造の精密フォルムを製作することができるのも、高精度な航空ベニアを使っているから可能になることなのです。

 

 下写真は可変式のヴィオラ用のクランプです。これにも航空ベニアが用いられています。可動部分の構造の精度がポイントです。これも、航空ベニアの精度の高さから可能になるものなのです。

 

航空ベニアの名前の由来

 「航空」ベニアという名前が付いているくらいなので、おそらく飛行機が関連しているのだろうという事は想像していました。私は勝手に、グライダーとかの軽飛行機を製作するための精密合板だとばかり思っていました。もっとも、これは間違ってはいないようです。しかし、実際の航空ベニアの歴史はもっと古かったのです。

 実は私が「航空ベニア」の由来を知ったのは、ほんの少し前のテレビ番組でした。その番組名とかは忘れてしまいましたが、航空機関連の番組でした。その番組中で、「第二次世界大戦末期の、幻の木製大型機」みたいな内容があったのです。要約すると、第二次世界大戦中に大型の輸送機を開発することになったが、軽金属(アルミ?)不足のために、木材で大型機を作る計画を立てたそうです。そして大型機の構造設計にも耐えうる強度と精度を持たせるために開発されたのが、上記の「航空ベニア」だったらしいのです。

 そして完成した大型飛行機がH-4という飛行機でした。ただ、試作機を一機作っただけで、結局は開発は中止になったらしいです。そのH-4輸送機についてはWikiのリンクを貼っておきますので、詳しくはそちらをみてください。ちなみに、その一機だけ作られた試作機は博物館にて展示されているそうです。

 

 いずにせよ、私がとても重宝して活用している「航空ベニア」って、悲しいかな戦争から生まれた物だったのですね。

 

 

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