私の工房の長いお付き合いのお客様で、私をとても信頼してくださって、工房にて楽器も、弓も購入してくださった方がいらっしゃいます。その方は楽器の扱いがとても丁寧なので、おそらく演奏も丁寧な方だと想像しています。

 その方が、歯の矯正の結果、「音がとても良くなったと先生に褒められるようになった」とおっしゃっているのです。

 最初は、単純に次のように推測しました。
 1. 歯を矯正
 2. 歯の噛み合わせが良くなった。
 3. 歯(顎)の食いしばり力が増した。
 4. 楽器をがっちり持てるようになった。
 5. 音が良くなった。

 これは皆さんも同じように考えることでしょう。

 しかし、ここで我に返りました。これでは、私が常々主張している「良い演奏」と矛盾してしまっているのです。すなわち、楽器を顎でがっちり挟み込んでしまうと、結果的に理想的な演奏が出来ずに、良い音は出ないはずなのです。
 上記の考え方では、矯正が良い音に結びつくとは思えないのです。

 ちなみに蛇足になりますが、私が主張する理想的な演奏の「理」3本柱は次の通りです。
 1. 弓の性能の理論
 2. 楽器の構え方の理論
 3. 楽器の音響的な理論(理論と言うよりは、理論に基づいた技術)

 

 そこで歯の矯正と、音との因果関係を、上記の私の考え方の基に、推測してみました(前提として、実性能の良い弓と良い楽器を所有している事とします)。

 上記の「理」の3本柱をここで簡単に説明することは、時間的、スペース的に不可能なので、ごくごく簡単に説明すると、

「実性能の高い弓を使い、理想的な楽器の構え方で、性能の高い楽器に、理想的な摩擦力を加える操作を行う」という行動です。

 ここで歯の矯正がどの部分と関わってくるのかというと、「理想的な楽器の構え方」という部分なのです(それは皆さんも最初からそう思っていらした事でしょう)。
 具体的に、楽器の構え方のどの部分に「歯の矯正」が関わってくるかというと、たぶん「背骨(背筋)のコントロール」という部分だと思います。楽器を理想的に構えるためには、「楽器を持つ理論」を理解していなければなりません。それは「てこの原理」の理解と実践なのですが、そのてこの原理を実践するための前提として、背筋が適切にコントロールされている事が条件になっているのです。

 おそらく歯を理想的な状態に矯正したことによって、顎の力みがなくなって、そして顎の歪みもなくなって、真っ直ぐに(力まずに)背筋がコントロールされたのだと思います。

 これによって、理想的な「てこの原理による楽器の構え」が可能になり、その「てこの原理による理想的が楽器の構え」に「実性能の高い弓の圧力による、理想的な摩擦力」をかけることが出来るようになったのでしょう。

 その理想的な摩擦力が、良い楽器の本来のポテンシャルを引き出したのだと想像できます。

 話が、ちょっと難しくなりすぎました。もの凄く簡単に説明するのならば、「歯の矯正によって、身体の無駄な力が無くなった」とでも言ったら良いでしょうか。

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