私は工房にいらしてくださるお客様から(高い)お金を取ります。それはすなわち、お客様の「真の満足」にいかに近づけるかという努力なのです。「真」が無い、単なる「満足」を与えるだけだったら、相手のプライドを満たしてあげれば済みます。それは簡単な事です。

 しかし、「真の満足」という事になると、話は一気に難しくなります。
 第一、「良い音」の答え自体がありません。例えるなら、割り切れない円周率を、割り切って考えるようなものなのです(これって難問です)。

 答えの無い世界で、具体的な回答を出そうとする行為は、大洋の真ん中でもがくくらいの苦労が、いや苦しみがあります。本当は、こういう内情をお客様に言ってはいけないのですが、溺れかけているとも言えるかもしれません。

 そのためには、「自分の芯」になるべき物が必要なのです。大洋の真ん中で溺れかけている時、何か掴めるような藁(または浮き輪)があれば、それだけでまた泳ぐことが出来るのです。だから私は色々な方面に興味をもって手を出しているつもりです。

 お客様と真摯に接すると言うことは、このくらいのパワーが必要なのです。若い時には「技術向上」の事ばかりを意識していましたが、この歳になると、どちらかというと精神的な事の方が大きいです。「これで十分じゃないの?」って思うようになったら、もうおしまいなのです。

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