私のホームページやブログ中において、「腰の強い弓」の重要性を説いています。これを見て(または動画をみて)、腰の強い弓を買えば良いのだと思っている人も多いと思います。事実、私の工房にいらした方で、「佐々木さんの弓のホームページを読んで、他店で腰の強い弓を試奏したけれど、硬すぎて良いと思わなかった」みたいな事を言われた事が何度かあります。

 その通りです。

 「他店で試奏したその弓」が実際にどのような性能であるのかはわかりませんので(強くても重すぎてはいけませんし)、その弓に関してはノーコメントですが、例えば私の工房でお勧めする弓を単に購入したとしても、または説明無しで試奏したとしても、同じような感想を持たれると思います。弓がはじかれてしまって、音がかすれたり、弓が跳ねてしまったりする感想を持たれると思います。

 「弓の性能の理論」を本当の意味で理解していない人は、例え私がお勧めする「性能の良い弓」を持ったとしても、今までの様な弾き方をしてしまうのです。すなわち、弦の表面を撫でるようなボウイング(弱い摩擦力)をしてしまいます。これは弱い弓を使っている人の、典型的な演奏方法です(初級者~プロの演奏者まで共通です)。この奏法で演奏すると、摩擦力が小さくて、さらに音が小さく、さらにボケているので(それを柔らかい音と勘違いしている人がほとんどです)、逆に、変な弾き方、または下手な弾き方をしていても粗が出ないのです。だから良いのだと勘違いしている人もずいぶん多いのです。

 一方、良い弓(腰の強い弓)は、楽器をドライブできる大きな摩擦力のポテンシャルを持っています。車に例えるのなら、大パワーのレーシングカーのエンジンを手に入れたようなものなのです。このような車は、いい加減な運転では悪影響の方が出てしまうのです。弓も同じで、腰の強い弓を、正しい知識なしに(弓の性能の本当の意味を正しく理解せずに)弾くと、無意識にこれまでと同じような演奏を行ってしまいます。そうすると、音がかすれたり、弓がはじかれたり、音程の悪さが際立ったり、または弾き疲れしてしまったりしてしまうのです。

 ただ、心配はいりません。良い弓を扱うためには、レーシングカーのように高度な運転テクニックや、ライセンスは必要ありません。ちょっとした、正しい説明と、ちょっとしたボウイングの矯正だけで、まるで見違えた音が出るようになります(もちろんその前提として、自分のこれまでのプライドを捨て(とりあえずしまっておき)、「聴く耳」をもつ必要があります)。

 ようするに、「弓単体」だけで、本当の良い弓は手に入れられないという事です。私がなぜ「私の工房には良い弓がありますよ」と自信をもって言い切っているのかというと、その全ての「一貫性」に自信があるからなのです。

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