音色研究のためのお勧めソフト 〜DigiOnSound2

2002.9.16 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 私は1988年以来、ヴァイオリンの音響研究を主にパソコンを利用して行っています。そしてその時からずっと、倍音を意識して操作できるソフトを物色していました。FFTのスペクトラム・グラフの倍音を操作して、それが再び音になる(原理的には逆FFT)ようなソフトです。しかし、1988年当時はもとより、最近においてもなかなかそのような都合の良いソフトは見つかりませんでした。オーディオのイコライザみたいなソフトや、FFTのスペクトラムの数点(6点くらい)の周波数をイコライザ的に操作するソフトならばいくつかありました。しかし、倍音をピンポイントで操作して(変更して)、それを再び音にするものは、私が知る限りは無かったのです。
 ドイツに住んでいた時に、在ドイツの日本企業の方が、上記のようなことができる最新装置があるといって、見せてもらったことがあります。ヴァイオリンを持っていって、色々な実験(遊び)をさせてもらった貴重な想い出があります。しかしそれは一般の人にはとても手の届かないような高価なものでした。またパソコンベースの機械でもありませんでした。

お勧めの倍音操作ソフト
 つい先日、「FFT EQ」という言葉が目に付きました。それはDigiOnSound2(ソフト制作 DigiOn、販売ジャストシステム)というソフトです(注1)。そしてお試し版があったのでダウンロードして試してみたところ、びっくりです。まさに私が求めていたものが、それも補助機能として付いていたのです。もともとはWAVEデータの録音・編集ソフトです。
 現時点ではまだお試し版で試行錯誤している状態ですが(注2)、FFTスペクトラムの倍音成分をマウスで自在に変形すると、その変形した音がズバリと出ます。最初はその精度を信用できませんでしたが、FFTスペクトラム・グラフを変更したデータを再保存して、それを今まで使っていたSpectraProのFFT計測ソフトで測定してみると、その精度に驚かされます。きちんと再現されているのです(もっとも、さすがに位相まで完璧に再現されているとは思えませんが)。
 あまりの興奮に、つい徹夜で色々と遊んでしまいました。今まで10年以上も疑問に思っていた音色の実験を(本格的なものではありませんが)色々と試してみました。そのくらい、すごいソフトです。また画期的なソフトです。

 上の最初のグラフは、WAVEデータ(ヴァイオリンのE開放弦の音)を読み込んでそれをFFT表示し、マウスで基音を小さくしてみました(赤色の音が元の基音の大きさです)。そして「プレビュー」のボタンをクリックすると、変更した音が出るのです。そして次のグラフは、基音のすぐ右側に全く新しいモードを作ってみました。
 私はヘッドフォン(Sony MDR-CD900ST)でそれを試聴しますが、実に面白いです。ほんの少し遊んでみただけで、私が10年以上も予想していた事を軽く裏切るような結果もたくさん出ました。とにかく、「こんなに気軽にできて良いの?」というのが率直な気持ちです。しかしその逆に、音の複雑さ、音への疑問は深まるばかりです。


難点もありますが
 このソフトの凄さには感心するばかりですが、難点もあります。それはパソコンの音響ソフト全てに言えることですが、精度の高いサウンドカードでなければ、精度の高い測定は不可能ということ。またこのDigiOnSound2というソフトが、音響研究のためのソフトではないために、FFTスペクトラムのグラフ表示の表現力が弱いことです。それにFFTスペクトラムの倍音成分を操作するその操作方法が、マウスでしか行えないというのもじれったいです。
 しかしそれも許せてしまうほどの性能と可能性を持っています。音色研究を行っている方は是非、まずはお試し版で試してください。そしてなにか興味深いことがわかりましたら、是非その発表をお願いします。

注1 2002.12現在、DigiOnSound2はバージョンアップしてDigiOnSound3になっています。
そしてこの体験版は、残念ながら未掲載です。ちなみに廉価版のDigiOnSound3 ExpressにはFFTイコライザの機能はありません。

注2 2002.12現在は、DigiOnSound3の正規ユーザーです。