製図によるフレットの求め方

1999.9.9 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 高度な数学教育や電子計算機などが普及する以前のつい最近まで、ギターやバロック楽器における「フレット位置」の求め方は、高度な技術とされていました。製作者の中には「秘伝」として隠していた人々も多かったと思います。
 数学的な意味では当時において、既に「平均率」の理論は確立されており、計算によってフレット位置を求めることは決して不可能なことではなかったと思います。しかし、数学的な教育を受けていない製作者が、それも手の計算によってそれを実際の製作に応用することは困難だったことでしょう。そこで彼らは、「製図的な手法」によってフレット位置を求めることをあみ出したのです。

製図によるフレット位置の求め方
 この方法は、私がドイツのマイスター試験の専門科目講習時に習ったものです。当時の数学的な知識のなかった製作者が、試行錯誤で考え出した手法なのでしょうが、よく見るときちんと数学的な論理付けがされている方法です。



 上図のにおける最も重要なポイントは「18等分にする」ということなのです。詳しい説明をすると平均率の理論にまで踏み込んでしまいますので、ここでは話を簡単に済ませますが、「18等分=0.056(注)」ということです。これを見てピンとこられた方も多いかと思います。平均率によるフレットは「12乗根2(現代においてさえも一般の電卓では求められません)=1.059」で求められます。
 すなわち「18等分」というキーワードを利用することによって、近似的に平均率の第1フレットの位置を求めていたわけです。

 次に第2フレットの求め方として、「相似形」を利用している所など、数学(計算)的な知識を持っている現代人にとっては感心させられます。この様なことを経験によってあみ出し、そして弦楽器を進歩させてきた先人達に感謝の気持ちと、そして敬意でいっぱいです。


注:この部分の記載について、東大で楽器の研究もされている吉岡大二郎先生 から、「このままだと,不注意な人は0,059を0.056で近似していると読んでしまうのではないでしょうか.ここはより正確には弦の長さを17/18=0.9444倍にすると,共鳴振動数は18/17=1.0588倍になり,これは1.0595に極めて近いという説明をするべきだと思います.」というアドバイスを頂きましたので、脚注として掲載します。実は私もまさにこのような勘違いをしていましたので、この様なアドバイスはとてもありがたいことです。