楽器の内部観察用「内視鏡」

2010年8月31日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

楽器の内部観察の必要性

 楽器の修理・調整を行う上で、楽器の内部の状態を把握することは必須です。もちろん、エンドピン穴などから楽器の内部を直接覗き込む込んだり、またはf孔穴からミラーを併用しながら覗き込むことで必要十分な観察は可能です。しかしより詳細な観察をしようとしたり、内部の状態を撮影しよと考えると「内視鏡」の必要性を感じてきます。
 楽器の内部撮影をすることによって、「修理箇所・修理を必要としている箇所のデータ化」、そしてその「証拠撮影」、「顧客への提示・説明」などが行えるようになります。特に顧客側にとっては「見やすい写真・映像」を見ることによって、専門技術的な説明をより理解しやすくなったり、または実際に内部の状態を鮮明に見ることによって安心感が生まれるはずです。これは最近の医療とも共通する事でです。我々技術者側にとっても、撮影した写真・映像データを後日、時間をおいて眺めることによって、自分自身で客観的な判断や考察を行うこともできるのです。

「内視鏡」の用途と種類

 楽器の内部を観察するための「内視鏡」には、その目的や構造によって様々な種類の「内視鏡」が存在します。さらに価格も「ピンからキリまで」あります。それらの内視鏡を、「弦楽器観察用途」という前提で分類してみましょう。

 

「硬性鏡」と「軟性鏡」

 内視鏡は大きく「硬性鏡」と「軟性鏡」に分類されます。「硬性鏡」とは細い鏡筒部分が硬くて曲がらないタイプで、「ボアスコープ」や「エンドスコープ」などとも呼ばれます。一方「軟性鏡」とは差し込む部分がチューブのように柔らかいタイプです。自由度が高いのは軟性鏡で、「胃カメラ」がその代表といってもよいでしょう。実際には様々なタイプが存在します。
 軟性鏡は比較的自由に曲がるので、鏡筒を微妙に曲げながら、直接観察ができないような複雑な場所の観察をすることが可能です。これが軟性鏡の最大のメリットです。一方、硬性鏡のメリットは、高精度な光学レンズを直接鏡筒に組み込んでしまうことができるということです。すなわち、画質が良いのです。もちろん硬性鏡にも様々な種類があり、硬性鏡だからと言って必ずしも高画質とは限りません。

 

軟性鏡の種類(光学式とビデオカメラ式)
ファイバースコープ(光学式)

 比較的自由に曲がる「軟性鏡」を細分化すると光学式とビデオカメラ式に分けることができます。光学式の軟性鏡の仕組みは、フレキシブルチューブの中に光ファイバーが詰まっていて、その光ファイイバーにて導かれた光が接眼レンズで像を結ぶ仕組みの内視鏡です。以前は「軟性鏡」と言えばこの光ファイバー式が一般的でした。しかし欠点もあります。3,000本~25,000本もの光ファイバーを束ねているとはいえ、どうしても下に掲載した画像のように蜂の巣のような点々が写ってしまうことです。よって解像力にも限界があります。

内視鏡

実験のため中古購入した旧式の医療用内視鏡(12,000ファイバー画素)

ファイバー式内視鏡

12,000画素のファイバー式内視鏡の画像

ファイバースコープでの動画撮影 HD(3分38秒 56MB)

 

ビデオスコープ(ビデオカメラ式)

 軟性鏡のもう一つのタイプとして「ビデオスコープ」があります。内視鏡の先端に超小型のビデオカメラ(CCDやCMOS素子)がついているのです。以前はビデオカメラの性能が低かったので「ビデオスコープ=低画質」という印象でしたが、日進月歩のエレクトロニクスの進歩によって、超小型の高性能カメラが生まれ、さらにビデオスコープは進化しています。
 ビデオスコープの特徴として、映像処理機器との相性の良さがあります。すなわち、モニタに映してリアルタイムに観察したり、その映像を録画したり、画像処理を行って見えにくい部分を強調したりできます。最近の医療用内視鏡のほとんどは、この「ビデオスコープ」タイプです。工業用(検査用)の物もビデオスコープが多くなってきました。弦楽器の用途としては関係有りませんが、ビデオスコープは挿入管部分が5~30mとか長くても、画質の劣化がほとんど起きないことも特徴です。

オリンパスIPLEX MX

Olympus 工業用ビデオスコープ「 IPLEX MX(2004年製)」

ビデオスコープ

IPLEX MXの静止画像(640X480=31万画素)

 

 

硬性鏡(ボアスコープ・エンドスコープ)

 先にも書きましたように、硬性鏡(ボアスコープ、エンドスコープ)の特徴は金属の細い棒のような筐体です。曲がらないので観察の融通は利きにくいのですが、高精度の光学レンズを組み込んで高画質、高分解能を特徴とした製品が多いです。もちろん硬性鏡にも様々な価格帯や、それに伴う性能の物が存在しますので、硬性鏡だからと言って「最高画質」というほど単純なわけでもありません。

エンドスコープ

KarlStorz社製の高性能エンドスコープ(6.5mm直径、視野角67度)

KarlStorzエンドスコープ

KarlStorz社のエンドスコープにハイビジョン・ビデオカメラを接続して撮影した静止画

 さすがに高性能タイプのエンドスコープのことだけあって、画質・解像力的には素晴らしいです。欠点は、スコープが直管のためにf孔からの挿入では観察範囲が限定されてしまい、本格的な観察・撮影を行うためには部品を全て外してエンドピン穴からスコープを挿入しなければならない点です。

 

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