外国製の工作機械の国内使用

1998年12月24日  ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 ヴァイオリン製作用に限らず、外国メーカーには魅力的な小型工作機械が多いです。これは伝統的な日本の技術が「機械に頼るのは邪道」としていたのに対して、欧米ではその合理的な考え方から、機械の利用が盛んに行われてきた現れでしょう。
 事実、ドイツでは(他の欧米諸国も同じでしょう)、アマチュア工作においてさえも日本では想像できないほどの大型機械を導入します。余談ですが、ミュンヒェンで毎年開催される「道具・機械メッセ」でも、出品されているものはプロ用の大型の機械ばかりなのに、ごく一般の人々も見に行くのです。家具の「引き出し」を量産する機械のデモを熱心に見て、説明を受けている、(どう見ても)一般人家族の光景も珍しくないのです。
 工作機械は、欧米ではその位一般的なのです。そして様々な種類のものが存在します。この様に魅力的な機械を日本で使おうと考えるのは自然な考えですが、そのためには注意も必要です。

交流モーターと電圧・周波数
 工作機械の命は「刃」と「モーター」です。そしてこのモーターは、各国の電圧事情によって、下手をすると性能を発揮できなくなってしまうのです。
 モーターには直流モーターと交流モーターがあることは、皆さん既にご存じのことです。直流モーターはプラモデルやパソコンなどの精密機械に用いられる、主に小型のモーターです。一方で、例外はありますが、大型のパワーを必要とするモーターは交流モーターといってもよいでしょう。すなわち、ほとんどの工作機械は交流モータで動いているといってもよいのです。すなわち、交流モーターの特徴を知ることが、工作機械の輸入を考える上での第一歩なのです。
 ほとんどの方は、機械の輸入を考えるときに、外国と日本との電圧の違いを気にすることでしょう。例えばヨーロッパの多くでは220Vであり、またアメリカは110V(詳しいことは知りませんが)です。一方、日本は100Vなので、この違いだけに気を取られてしまうのです。しかしこの電圧の違いはそれほど深刻な事ではありません。問題なのは「周波数」です。
 交流モーターでその回転数(パワーといっても過言ではないです)を決定するのは、「電圧」ではなくて「周波数」なのです。我々は子供の頃からプラモデル用の直流モーターを学校教育や遊びなどで使っていますので、どうしても「パワー=電圧」と考えてしまいがちです。しかし交流モーターにおいては、いくら電圧を合わせても、周波数が異なっていては、その性能を発揮できません。
 すなわち、輸入機械を考える場合、まず第一に調べるべきなのは「周波数」です。当然、工作機械の適応周波数は、その国の電気の周波数に合うように作られていますので、まずは機械の輸入国の電気周波数を調べるべきなのです。
「電圧」と「周波数」の変換
 先で、工作機械においては周波数が重要な役割を果たすということを述べました。従って、電圧だけを機械に合わせるのではなく、周波数も機械に合わせる必要があります。しかし、ここで問題があります。電圧は昇圧トランスによって比較的簡単に操作できるのに対して、周波数を変換することは困難です。そのためにはインバータというマイコン制御の機械を必要とします。小電力のインバータならば比較的簡単に入手できますが、工作機械に使えるものとなると、入手はコストも含め現実的ではありません。
 すなわち、自分の住んでいる地域の電圧周波数と同じ機械を選ぶことが前提となるのです。
機械選択の実際
 日本には50Hz地域(東日本)と60Hz地域(西日本)があります。これによって、選択の方法は違ってくるのです。
 最初は東日本(50Hz地域)に住んでいる人が外国から機械を輸入する場合の事を考えてみましょう。話を簡単にするために、機械メーカーはヨーロッパのドイツとアメリカとします。
 ドイツ(ほとんどのヨーロッパ)には220Vで50Hzの電気が流れています。一方でアメリカは110Vで60Hzです(アメリカ内でも違いがあるかもしれません)。すると、東日本で外国製の機械を使う場合には、必然的にドイツ製でなければならないのです。よく「アメリカ製は110V用だから日本でも動く」という話を聞きますが、これはこと工作機械に関しては間違いです。もちろん動きはしますが、回転数が低く、本来の性能を発揮できないのです。もっとも本来の性能を知っている人は少ないので、不満を感じないで使っている人も多いと思います。
 すなわち、東日本において輸入工作機械を(本来の性能で使いたい場合には)、ドイツ製の機械を買い、電圧を220Vにあげて使えば完璧です。
 一方で、西日本において輸入機械を利用する場合、先の場合とは逆に、アメリカ製の機械が最適です。そして、電圧は110Vに昇圧するに越したことはないのですが、うまくいけば100Vのままでも問題なく使えるかもしれません。これは大阪が60Hzだからできることです。
 逆に西日本でドイツ製(50Hz仕様)の工作機械を220Vに昇圧して使った場合、刃物の回転速度が高くなりすぎて危険であったり、またはモーターが耐えきれずに壊れてしまう可能性もあります。問題なのは後者でしょう。
ヨーロッパ製機械の「国内仕様」の危険性
 国内の外国メーカー代理店では日本向けの工作機械が売られています。しかしこれには注意しなければなりません。というのは本当の意味で「日本仕様」とは限らないからです。あくまでも私が調べた範囲ですが、その多くの「国内仕様」とはあくまでも「100V対応」なのです。実際にはアメリカ向けの「110V、60Hz仕様」なのです。事実、私はドイツにて「100V仕様の機械は作っているか?」という質問を多くのメーカーにしました。そして返ってくる返事は「110V、60Hzならある」というものばかりでした。
 このように日本で販売されているからといって、安心はできません。もっとも、動かないということはありませんから、神経質にならなければ問題も感じないでしょう。また、西日本で使う分には、問題はないといってもよいともいます。
昇圧操作の実際
 ヨーロッパの機械はその機械の種類にもよりますが、220Vで使うことを前提としていますので、ものすごい電流が流れます。例えば私が持っているドイツ製の小型丸ノコは1500Wの消費電力です。日本のものは数百Wのものがほとんどですから、そのパワーの違いは明らかです。余談ですが、最近の日本では500W強のパワーを謳い文句にしている掃除機が主流ですが、ドイツでは1500W〜2000Wです。パワーがあれば偉いというものではありませんが、日本製品の消費電力の感覚でヨーロッパ製品の機械を使うことは危険なのです。
 昇圧トランスを選ぶ前に、電気の容量を考えなければなりません。できればクーラーのように、20Aのブレーカーから専用線を引いてもらうべきです。くれぐれもたこ足配線にトランスを接地しないようにしてください。
 私の場合、昇圧トランスは3KW用のもの(製品ではなく、部品として売っているものです)を購入しました。値段は1万円位だったでしょうか。それに20A用の電気線をつなぎ、もう片方にドイツで買ったコンセントを付けるだけの単純なものです。しかしこれでは機械を使用しない時もトランスに電気が流れて、いつも唸り音を発してしまいます。また電気代の無駄でもあります。従って、トランスと電気線との中間位置にスイッチを入れておくことをお勧めします。このスイッチは大電流に耐えられる、レバー式のものがよいでしょう。
 この様にしてできた環境は、東日本地域の場合にはドイツと全く同じです(過大な電力を必要としない限りは)。従って、ドイツで購入した機械を最高な状態で利用することができるのです。