デジタルカメラを使った、赤外線によるラベル撮影

2004.6.1 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 以前に紫外線(ブラックライト)によるニスの撮影をレポートしましたが、今回は赤外線を利用したラベル撮影について書きます。

赤外線とCCDの感度
 紫外線を利用した撮影の所でも書きましたが、デジタルカメラに利用されているCCD(一部の機種ではCMOS)は肉眼よりも広い領域の光、すなわち紫外線や赤外線にも感度が高く、特別な事をしなくても撮影可能なはずなのです。しかし話しはそこまで単純ではありません。可視光(肉眼で感じる事のできる光)以外の光まで写し込んでしまうと、画質が悪くなってしまうのです。従ってほとんどのデジタルカメラは、わざわざ赤外線カットフィルターなどを搭載しています。すなわち、全てのデジタルカメラで赤外線撮影が可能になるわけではありません。
赤外線撮影のできる機種を探す
 デジタルカメラで赤外線撮影を行うためにはまずは赤外線カットフィルタの弱いデジタルカメラを探す事から始まります。
 チェックの方法は簡単です。赤外線リモコン(テレビのリモコンなど)をデジタルカメラに向けて、リモコンスイッチを押しながら撮影してみてください。下の写真のようにリモコンからの光(これが赤外線です)が写っていれば、まずは第一段階はクリアです。私がいくつかの一眼レフデジカメで試してみたところ、Canon EOS-1Dと1Dsはダメで(高性能なEOS 1D系のデジカメは、高性能な赤外カットフィルタを内蔵しているからだと考えられます)、Canon EOS 10DとD30、Kiss-Digitalは撮影可能でした。その他のメーカーの一眼レフデジタルカメラに関しては、私は所有していないのでわかりません。

可視光カットフィルタ
 さて、赤外線を写す事ができるデジタルカメラの機種を探し出した後、そのまま赤外線撮影ができるわけではありません。それでは普通の写真(可視光写真)が撮れてしまいます。そこで可視光カットフィルタをレンズの前に付けることにより、赤外線だけを写す事が可能になります。
 可視光カットフィルタ(単に赤外線フィルタとも呼びます)には光をカットする領域などの違いから色々あるのですが、今回は富士フイルム社製のIR84というフィルタを購入してみました。下写真中の黒いフィルムが可視光カットフィルタ(赤外線透過フィルタ)です。この製品はそれほど珍しいものでもないので、大きなカメラ店ならば普通に売っているはずです。ちなみに私はヨドバシカメラの新宿本店カメラ館にて購入しました。価格は2,000円以下で買えます。

ラベル撮影実験〜普通の撮影
 今回はラベルの読めない古いチェロを、まずは普通に撮影してみました。ちなみに撮影に利用した機種はCanonのEOS 10Dです。肉眼でも下の写真のように、何かが書かれているということは辛うじてわかりますが、判読は不可能です。

赤外線撮影
 次にレンズの前に赤外線透過フィルタを固定して撮影してみました。この時、カメラは三脚にしっかりと固定して(マクロスライダを利用して微調整)、ISO800に増感してマニュアルモードにてスローシャッタースピードで撮影しました。シャッタースピードはいくつか撮影しながら、程良い露出になるように設定しました(このような事ができるのがデジカメの利点です)。
 この時注意する点はピントです。最初にフィルタを付けない状態でピントを合わせてからフィルタを付けるのですが(そうしないと真っ黒で何も見えない)、赤外線と可視光との性質の違いからピンぼけになってしまうのです。そのため、ピントをほんの僅かだけ手前に合わせ直してから撮影するのです。
 下の写真が赤外線撮影をした写真です。文字が浮き出てきました。そしてその下の写真は、画像処理をして文字の輪郭をはっきりさせたものです。

Photoshopにて輪郭強調処理したもの


番外編 〜 ビデオカメラの「ナイトショット」機能を使って撮影

 ソニーのビデオカメラには夜間撮影が可能な「ナイトショット」という機能が付いています。これはビデオカメラに搭載されている赤外線フィルタを一時的に外して、夜間撮影を可能にする機能なのです。
 実はデジタルカメラでの赤外線撮影を行う前に、まずはこちらで試行錯誤してみました。知っている方も多いと思うのですが、実はこのナイトショット機能を利用した盗撮が問題になり、メーカー側もビデオカメラに対策を行っています。ナイトショット機能が強い光(野外とか)の下で使えないようにしたのです。私が所有しているビデオカメラ(SONY PC100)も対策品です。しかし、今回撮影するような弱い光の下では普通に利用可能でした。

 本来ならばナイトショットモードにして、さらに赤外線フィルタを装着した状態で撮影するのが完璧なのかもしれませんが、それでは感度が低すぎてノイズだらけの映像になってしまいました。そこで単純にナイトショットモードだけで撮影してみました。ちなみにビデオカメラに付いている「静止画機能(約100万画素」を利用して撮影しました。

 ビデオカメラのナイトショットを利用した撮影は簡単です。液晶画面でリアルタイムで映像を確認する事もできます。ラベル撮影以外にも楽器のニスを眺め回したりすると普段の肉眼で見るのとは違った写り方をするので興味深いです。楽器の板の割れ部分が浮き出ます。

 さて肝心の画質ですが、下の写真くらいは撮影できたのですがこれが限界でした。微妙なピント、露出のコントロールができなく、また画素数的にも100万画素ではデータとしては厳しいです。ビデオに付属のデジカメ機能(静止画機能)と、本格的な一眼レフデジタルカメラとの性能を比べる方が無茶というものです。従って、ビデオを利用した赤外線撮影はあくまでも簡易的なものと考えるべきでしょう。本格的な撮影を行う前のチェック用として割り切って使う分には便利で重宝するかもしれません。

まとめ
 前回のブラックライトを利用した紫外線撮影と今回の赤外線撮影は、ヴァイオリンの研究、鑑定、評価、修理において非常において有効です。今までならばフィルムを使わなければならなかったために、ごく一部の専門家のみの技術でしたが、デジタルカメラを利用したこのような撮影によって、我々技術者が気軽に活用できるようになってきました。
後日の追記
 デジタルカメラでの赤外線撮影について色々と調べていたところ、アマチュア天文撮影者の中にはデジカメの赤外線カットフィルタを取り去って、赤外線領域の天体を撮影しているという情報を得ました。そしてさらに詳しく調べたところ、EOS Kiss-Digitalの改造を行っている方のホームページにたどり着きました。
 そのことについては「赤外線仕様デジタルカメラでの撮影」に追加レポートを書きます。

戻る