魂柱立て作業用の補正レンズ

2010年9月14日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

魂柱立て作業と老眼

 私は今年で47歳になったのですが、同年齢の技術者と会うと必ず老眼の話題となります。そのくらい「老眼」はごく普通の事であり、全ての技術者にとって悩みの種でもあるのです。老眼自体は老眼鏡をかけることで補正できるので、作業上問題となることはほとんど無いのですが、唯一、魂柱立て作業においては深刻な問題です。
下の図を見るとわかりますが、通常は小さなエンドピン穴に眼を密着させて、楽器の中を覗き込みます。エンドピン穴は小さいのですが、眼を密着させることで大きな視野(魂柱の全景)を見渡すことができるのです。ところが老眼が進行してしまうと、エンドピン穴から魂柱までの距離(約15cm強)に焦点を合わすことができなくなってしまい、魂柱がぼやけて見えてしまいます。
 そこで老眼鏡をかけると、魂柱ははっきり見えるようになるのですが、眼鏡をかけた分だけ眼がエンドピン穴から離れてしまうので(アゴ当ての金具などにぶつかってしまうので、眼鏡自体も穴に密着させることができません)、視野が小さくなってしまってエンドピンの全景を見ることができなくなってしまいます。これはジレンマです。

裸眼と眼鏡装着


魂柱立て作業用の補正レンズ

 先にも述べましたように、魂柱立て作業において重要なのはエンドピン穴に眼を密着させることです。それならば、老眼鏡のレンズを小さくカットして、エンドピン穴の前に貼り付ければ良いわけです。そこで、100円ショップで老眼鏡を買ってきて、「魂柱立て作業用の補正レンズ」を作ってみました。100円ショップで購入した老眼鏡は「度数+3.0」の強めの眼鏡です。魂柱までの位置は15cmとかなり近いので、通常の老眼鏡よりも強めのレンズが必要となります。

100円ショップの老眼鏡

100円ショップで購入した老眼鏡。

 

老眼鏡の加工1

フレームを切ってレンズを取り外す。

 

老眼鏡のレンズカット

プラスティックレンズなので、簡単に加工できる。

 

完成

 

実際に使った感想

 完成した補正レンズをアゴ当ての金具間に挟んで固定してエンドピン穴から覗き込んだところ、完璧に魂柱に焦点を合わすことができました。視野も広く、簡単・単純な割にとても実用的と感じました。

 

数種類の度数を追加

 上記の実験によって十分実用になることがわかりましたので、今度は様々な度数の補正レンズを揃えることにしました。覗き込む距離によって、補正レンズの度数に様々な種類があった方が便利だからです。老眼鏡を再び100円ショップに購入しに行き、最終的に+1.50~+3.50までの5つの眼鏡と、補正レンズを収納するケース(ゲームソフトの収納ケース)も購入してきました。それで完成したのが下写真です。

補正レンズ完成

 

 

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