ツゲ材の硝酸色着け処理の中和処理

2011年9月20日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

ツゲ材の素材の色

 アゴ当てやペグ、テールピース等に使われる材料には大きく分けて「黒檀(黒色)」「紫檀(濃茶色の縞模様)」そして「ツゲ(茶色、または黄茶色)」があります。黒檀と紫檀の色は木材の素材そのものの色であるのに対して、ほとんどのツゲ部品は酸性薬品などによって色つけがなされてします。ツゲそのものの色は、おそらく皆さんが考えているような濃茶色ではなく、もっと明るいクリーム色っぽい色をしているのです。この色のまま弦楽器の部品を作ってしまうと部品だけが浮き立って目立ってしまい、主役の楽器の雰囲気を台無しにしてしまいます。そこでツゲ材を濃い色に「色つけ処理」するのだと考えられます。

 

ツゲ材の硝酸色つけ処理(硝酸焼き)

 ツゲ材の色着けとしてもっとも簡単で単純な方法は、ニスや塗料でツゲ部品を塗ることです。しかしこの方法では、ツゲ素材のほんの表面にしか色を着けることしかできずに、長年使っているうちに部品のニスの色が剥げてしまい、色むらが出来てしまいます。そこで硝酸などの酸性薬品を使ってツゲ材に色を着ける方法が用いられています。この処理を我々は「硝酸焼き」と読んでいます。
 硝酸処理をされたツゲ材は、木材の表面から薬品が染みこんだ若干内部の層まで色が着きます。そのために長年使っていて部品表面が擦れても、その部分の色が落ちないのです。ところが欠点もあります。酸性薬品処理をするために、人によってはかぶれてしまったりする人がいるのです。または近くの金属部品部分が錆びてしまうというトラブルが生じることもあります。

 

アンモニアでの中和処理の実験

 硝酸で色着け処理をしたツゲ材を、片方は硝酸処理そのままの状態、そしてもう片方は硝酸処理をした直後にアンモニアで中和処理を行って、処理直後と半月後の比較をしてみました。処理直後には濃い茶色ですが、15日後には若干薄くなっていることがわかります。もっともほとんどの場合、さらに時間が経過してもこれ以上の退色はしません。

硝酸処理とアンモニア中和処理

 時々、「アンモニア処理は濃い色を出すためや、退色を食い止めるために行う」と言っている技術者の方もいますが、今回の実験からはアンモニア中和処理の有無で色の変化が起きているようには思えません。

 

アンモニア中和処理の確認

 半月経過したツゲ材に少し水を垂らしてpH試験紙に浸し、その酸性・アルカリ性の度合いを確認してみました。結果は下写真のように明らかな差が出ました。アンモニア処理をした部分が中性(または弱酸性)であるのに対して、中和処理をしなかった部分は明らかに酸性を示しています。これでは直接肌に触れる部分ではかぶれが出てしまう人がいてもおかしくはありません。

酸性と中性

結論

 硝酸色着け処理におけるアンモニアでの中和処理は、色の変化に関しては効果のほどはないようです。しかし「中和」に関しては確実にその効果が現れています。音とは関係ありませんが、このような地道な処理も重要な事だと思います。

 

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