超音波洗浄機によるヤスリのメンテナンス

2012年11月10日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

超音波洗浄機

 「超音波洗浄機」とは、簡単に言ってしまうとメガネやさんの店頭に置いてあるあれです。水を高周波で振動させ、目に見えないくらい小さな気泡や衝撃をあてて対象物の表面を洗浄する機械です。安いものは数千円から、業務用の物は数万円から数十万円で(もちろんそれ以上の価格の物も)売られています。超音波の周波数は、通常のメガネ洗浄用のものは40KHzくらいですが、業務用の物では28KHzとか40KHzとか100KHzとか様々な周波数の超音波洗浄機が、用途によって用いられます。
 私が下記の実験で使った超音波洗浄機は、28KHzと38KHzを同時に(または片方だけ)出すことができる業務用の超音波洗浄機です。特徴としては水槽の大きさが大きいので、ヤスリやダイヤモンド砥石などの大きな道具まで洗浄することができることです。業務用の超音波洗浄機は高出力で、さらに長時間の駆動に堪えられる振動素子を備えていることです。もっとも、基本的には「メガネ用の超音波洗浄機」と、大して変わりはないはずです。

業務用超音波洗浄機

超音波洗浄機によるヤスリのメンテナンス

 我々が普段使っているヤスリは、使っているうちに目詰まりして削る能力が落ちてしまいます。そこで時々真鍮製の細かなワイヤブラシ等で目詰まりを取り去るメンテナンスを行うのです。ブラシでも取れないような頑固な目詰まりは、丁寧に針先でつついて落とします。ところが、とても細かな「細目ヤスリ」の場合には、目詰まりを取り去る作業がとても面倒なのです。ブラシをかけても、ヤスリの目自体がブラシよりも細いために、なかなかブラシだけで目詰まりを取ることはできません。そこで、超音波洗浄機が利用できないものかと考えました。

 下の写真はびっしりと目詰まりした細目ヤスリです。茶色いのはサビではなく、濃い色の木材を削った削りカスです。おそらく茶色のものは紫檀や黒檀で、オレンジ色の目詰まりはフェルナンブコ材、そして白っぽいのが楓材の目詰まりだと想像できます。特に紫檀の目詰まりは粘りけがあり、なかなか取れないのです。

オリーブE弦

目詰まりした細目ヤスリ

 

ワイヤブラシをかけた後

 

超音波洗浄機で5分間洗浄

 

実験結果と考察

 2番目の写真は真鍮製のワイヤブラシをかけた直後の写真です。表面を塞いでいた大きな汚れは落ちていますが、ヤスリの目の溝奥に入り込んだカスは全く落ちていません。ワイヤブラシの針先がヤスリの目の溝に都合良く入り込まないため、カスが掻き出されないのだと考えられます。
3番目の写真は5分間、超音波洗浄機に入れて洗浄した後の写真です。正直なところ、期待していたほどの劇的な洗浄効果はありませんでした。もっと綺麗さっぱり、目詰まりが落ちるのではないかと期待していたのです。しかし冷静になって観察してみると、写真の右側部分でヤスリの溝の奥まで綺麗になっている部分もあります。これこそが超音波洗浄機の効果です。ワイヤブラシや、手で針をつかって目詰まりを落としたくらいでは、なかなかここまで綺麗には落とせません。

今回の実験で、超音波洗浄機の可能性は確認できました。あとは洗浄時間を長くするとか、または洗浄前に何かの溶剤を染みこませるとか、さらなる試行錯誤が必要そうではあります。しかし、完璧ではありませんでしたが興味深い結果を確認することができました。


追加洗浄実験

 後日、さらに12分間超音波洗浄をしてみました。前回に追加して時間をかけて洗浄したことで、ヤスリの目詰まりがかなり落ちていることが判ります。ヤスリは超音波を長時間あてても傷むことはないので、「超音波洗浄機による細目ヤスリのメンテナンス」が十分実用になるという確証がもてました。

超音波洗浄機によるヤスリの追加

 

戻る