工房の照明(色評価用蛍光灯)

2003.4.4 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 印刷関連の業種では、照明(蛍光灯)を基準タイプ(色評価用)に整えるという事はごく当たり前の事です。しかし、我々ヴァイオリン製作関連の工房においては、照明の照度は気にしても、色合いまで気にしている人は少ないと思います。今回は工房の蛍光灯を色評価用蛍光灯に換えて、どのような変化があるのかを調べてみました。

一般蛍光灯と色評価用の蛍光灯の違い
 一般蛍光灯にも色々な種類があります。工房や事務所に使われているごく普通の蛍光灯、最近家庭の住居に多く使われるようになった「3波長発光」タイプ、Hf蛍光灯・・・さらにこれに加え、それぞれのタイプの蛍光灯の中に色合い(色温度)の違いも存在します。「電球色」、「白色」、「昼光色」などです。

 一般に、事務所や工房では「標準蛍光灯の白色」タイプが使われていると思います。この蛍光灯の特徴は、色温度が4200Kですこし黄色っぽい色をしています。明るく、しかし眼に優しい感じで、ギスギスした感じがしません。一方で電球色のように黄色っぽすぎでもありません。
 最初、私の工房にはナショナル製の「FL40SS・W/37(白色)」の蛍光灯が付いていました。先にも述べましたように、この蛍光灯は眼に優しいので違和感はないのですが、欠点もあります。色が偏っているのです。これはポジフィルム(スライドフィルム)で撮影してみると一目瞭然です。もっとも肉眼ではこのように緑色には見えません。どちらかと言えば、すこし黄色っぽく見えるくらいです。例えば工房に取材に来るカメラマンは、この蛍光灯の緑色を嫌い、わざわざ蛍光灯を消して撮影する人もいるくらいです。

ナショナル製の「FL40SS・W/37(白色)」の蛍光灯

ポジフィルムで撮影したデータ(肉眼では、ここまで緑色に感じるわけではありません)

ナショナル製の「FL40SS・W/37(白色)」の蛍光灯の波長グラフ(ナショナルのホームページより)

 この蛍光灯(4200K白色)を工房の灯りとして利用したからといって、特に大きな弊害があるわけではありません。事実、新工房が完成してからのこの1年間、この蛍光灯(FL40SS・W/37白色)を使ってきました。強いてデメリットを挙げるのならば、ポジフィルム写真を撮る時に、蛍光灯の緑色の光がどうしても壁面などに現れてしまうという事です。また、楽器の色が正しく表現されているのだろうかという不安を常に持っていた事は事実です。




ナショナル製の色評価用蛍光灯 「FL40S・N-EDL(白昼色)」演色AAA

ナショナル製の色評価用蛍光灯 「FL40S・N-EDL(白昼色)」演色AAA蛍光灯の波長グラフ(ナショナルのホームページより)

 色評価用の演色AAAタイプの蛍光灯の特徴は、色温度が5000K(昼光色)というだけではありません。昼光色の蛍光灯ならば、一般の蛍光灯にでもあります。演色AAAタイプの蛍光灯は、出てくる波長のバランスがきちんと取れているのです。グラフを見ても、理想的な完璧さとまではいかないまでも、一般蛍光灯のグラフと違って各波長のバランスが取れている事がわかると思います。
 この演色AAA蛍光灯の光でポジフィルム撮影を行ってみました。結果は一般蛍光灯とはまるで違い、癖のない撮影結果となっています。これならば、工房内で写真撮影したとしても、違和感のある蛍光灯の緑色が壁などに写り込まなくて済みます。
 肉眼で感じる演色AAA蛍光灯は、一般蛍光灯と、ポジフィルムの撮影データ比較ほどの差はありません。若干色が青白っぽくなったかな?という程度の変化です。また、ほんの僅かに明るさが暗くなったようにも感じました。

色評価用蛍光灯(演色AAA)に換えて、変わった事
今回、工房の蛍光灯を色評価用蛍光灯に換えて気が付いた事を箇条書きにしてみます。
  *部屋の色が若干青白っぽくなった(今まで少し黄色みを帯びていたからそう感じると思います)。
  *ポジフィルムで写真撮影をした時に、壁に蛍光灯独特の緑色が写り込んでいたが、これが無くなり、ライティング設定が楽になった。
  *今まで黄色っぽいと思っていた楽器が、想像していた以上に赤っぽかったという事がわかった。これは今回の収穫でした。
まとめ
 工房の蛍光灯を色評価用に換える事によって、楽器の本来の色を確認する事が出来ます。これは重要な事と思います。また、工房には時々テレビ取材、雑誌取材などが来たり、または工房内で写真撮影をする機会も多いものです。このような時にも、色評価用の蛍光灯は撮影の邪魔になりません。また、印刷物の試作、評価を行う事もありますがこの様な場合にも威力を発揮する事でしょう。
 色評価用蛍光灯の価格は一般蛍光灯とほとんど同じです。今回私が購入した蛍光灯も、1本定価\1,600ですから特に高価というわけではありません。またナショナル製以外にも三菱OSURAM製の色評価蛍光灯もあり、性能はほとんど同じです(こちらの方が値段が安くてお買い得かもしれません)。購入できる場所は、一般の電気店、量販店にはないかもしれません。私は秋葉原の蛍光灯専門店で購入しました。




蛍光灯器具をインバータータイプに変更

2003.11 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 先に書きましたように、半年前に工房の蛍光灯を色評価用蛍光灯(演色AAA)に交換しました。最初のうちは目チカチカする感じもしたのですが、それはすぐに慣れてしまいました。今ではこの蛍光灯に慣れてしまい、一般的な事務所用蛍光灯の明かりの方に違和感を感じるくらいです。現在は地下室(機械室)の蛍光灯まで演色AAAに変更しました。

 さて工房の蛍光灯の色の基準が定まったのですが、次に気になりだしたのは蛍光灯のフリッカーです。50Hzでチカチカと点滅するあれです。私の場合には弓の松ヤニを塗るときに手がチカチカして、目がまわりそうになるのです。また、工房でビデオ撮影をするときもシャッタースピード調整を怠ると、フリッカーでせっかく撮影した映像が台無しになってしまいます。そこでインバータタイプの蛍光灯器具に交換する事にしました。

インバータタイプの事務所用蛍光灯器具(演色AAA)
 松下電工のカタログから次の機種を探しました。形は上写真の蛍光灯と全く同じなので、ドライバー1本で簡単に交換でしました。

 蛍光灯器具 :松下電工 マルチフリーインバータ FSA42001F VPH9 (富士型2灯用) ランプ全光束:9900 lm(88W)タイプ
 蛍光灯 :FHF32N-EDL-NU(品番 FL0328325) 演色AAA昼白色

 価格は一般の事務所用蛍光灯と比べて極端に高いわけではありませんので、現在事務所用蛍光灯がついている方は交換してみてはいかがでしょうか?インバータタイプなのでフリッカーが出ないので気持ちがよいです。ビデオ撮影や写真撮影の時にも、また印刷物の色評価の時にも「色基準」がもててとても便利です。またニス塗りの時にも、色の基準がはっきりしますから、ニスの色を客観的に身体で覚える事ができるのです。

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