耐水ペーパーの種類と粒状
2016年8月6日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
新作製作におけるニス塗り作業の仕上げ方法には「塗りっぱなし」技法と、「耐水ペーパーによる研磨」技法がありますが、私の製作では耐水ペーパーでの研磨技法を用います。
その耐水ペーパーを大きく分類すると、「粒度(粒子の大きさ、または番数)」と砥粒(粒子の種類)に分けることができます。しかし、多くの弦楽器製作者は粒度(粗さ)に関しては意識が高くても、砥粒(種類)を意識して使い分けたり、または観察している人は少ないと思います。事実私自身も、最低限の基本的知識は知っていたつもりですが、今回初めてその実際の粒状を目で見て観察してみました。
耐水ペーパーの種類
弦楽器のニス磨き作業に用いる耐水ペーパーは大きく分けると、酸化アルミニウム粒子を用いられて作られている「砥粒AA」型番の薄茶色の耐水ペーパーと、炭化ケイ素粒子を用いられて作られている「砥粒CC」型番の灰色の耐水ペーパーの2種類です。さらに、それぞれの種類にたくさんの粒度(粒子の粗さ)が存在します。
一般的には酸化アルミニウム(AA)タイプは粘りけがあり、かつ持続性が高いという特徴があるに対して、炭化ケイ素(CC)タイプは硬さある反面持続性に劣るという特徴があると言われています。私がこれまで実際に使ってきた感覚も、それに似ています。酸化アルミニウム耐水ペーパーは使い始めにおいて、繊細で柔らかい感じがするのですが、目詰まりが少なく長持ちするイメージです。一方、炭化ケイ素耐水ペーパーは、最初に「粗さ」を感じます。しかし、直ぐに引っかかりがなくなってしまうイメージです。従って、私はニス磨きにおいては酸化アルミニウム耐水ペーパーの方をメインとして使っています 。
今回はこの2種類の耐水ペーパーの実際の砥面の状態を観察し、さらに使用前と使用後の砥面の状態も比較してみました。
1. 酸化アルミニウム(砥粒AA)#800 新品
下写真は、500倍に拡大した酸化アルミニウムタイプの耐水ペーパーの未使用状態の砥粒面です。想像してほどは粒状感が無いです。
2. 炭化ケイ素(砥粒CC)#800 新品
一方炭化ケイ素タイプの耐水ペーパーの表面は、まるでこれが同じ粒度なのかと思うほど、粗そうです。しかし冷静に観察してみると、確かに1つの凹凸(山というかクレーターというか)の大きさが、上写真の「酸化アルミニウムタイプ#800」も、この写真の「炭化ケイ素タイプ#800」も、約50マイクロメーターくらいです。よって、同じ#800粒度というのも納得です。
炭化ケイ素タイプの耐水ペーパーが、使用直後に食いつき具合が鋭いというのは、下記の写真からも説明が付きます。
3. 酸化アルミニウム(砥粒AA)#800 使用後
使用後の耐水ペーパーは大きな凹凸が無くなり、ずいぶん平になってしまっています。しかし細かな凹凸は付いています。砥粒面の状態変化としては、連続性があると言えると思います。
4. 炭化ケイ素(砥粒CC)#800 使用後
一方、炭化ケイ素タイプの耐水ペーパーは、細かな凹凸がまだ残っているとは言え、未使用時(写真2)とは表面の状態が全く異なります。この明かな状態の変化が、「引っかかりが急激に落ちる(持続性に劣る)」という感覚に繋がっているのだと思います。
今回初めて耐水ペーパーの砥粒面を拡大して観察してみましたが、これまで私が作業中に感じてきた「感覚」と、実際の耐水ペーパーの砥粒構造をマッチすることができました。このような観察や研究は、実際の技術向上に必ず結びつくと信じています。