膝を軽く「コン」と叩くと、脚がビクっと動く~芸術の本質

2017年9月9日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

 

 膝を軽く「コン」と叩くと、脚がビクっと動く。

 これが、演奏の本質です。すなわち、「聴衆という生物の、生理的反応を引き起こす操作」を行う行為なのです。

 生物学を多少なりとも習った現代人にとって、「膝を叩くと、脚がビクっと動く」事象は、何も不思議なことではありません。しかし、もしもその仕組みをしらない、古代の人ならば、膝を叩いた私の事を、神秘的な力を持った人間と思うことでしょう。場合によっては、神がかった力を持っていると感じて教祖様のように祭り上げるかもしれません。

 すなわち、自分自身に起きた生理的反応を、自分自身の何らかの価値判断(例えば、驚愕観とか、宗教観とか、芸術観とか)に当てはめて、ある虚像を築き上げたわけです。これが芸術観の本質なのです。

 すなわち、芸術感とは個々の生物体が、自分に起きた生理的反応(現象)を基に作り上げる虚像(良い意味でです)であり、それは個々の生物体によって様々なのです。

 すなわち演奏とは、科学的な行為なのです。脚をビクっとさせたかったら、科学的に理にかなった神経部分に刺激を与える必要があります。叩くポイントがちょっとずれただけで、脚は動きません。

 

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