マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:初心者が楽器を購入するのに注意することは何ですか?
A:「良い楽器」の選び方は一言で答えられるものではありませんので、今回はその中の「予算配分」について書いてみましょう。とは言っても、具体的に「楽器いくら、弓がいくら・・・」という意味ではありませんので注意してください。
- 初心者にありがちな購入
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まだ自分の楽器を持っていない方が楽器を購入しようと考えたときに、ほとんどの方は、「楽器が欲しい!楽器が欲しい!」と、ついつい楽器のことばかりに意識がいってしまいます。。もちろんこれは当然でしょう。楽器本体がメインであることは間違いありません。しかし、この時に注意が必要なのです。というのは、ほとんどの方は自分の予算の許す限りを楽器に割り当ててしまい、大切な弓やケースは後回しになっているからです。予算の残った僅かを弓の代金に充て、ケースはおまけで付けてもらえるだろうくらいに考えているのです。しかしこれは間違った購入の仕方だと、私は考えます。
- 弓の性能の重要性
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先にも述べましたように、最終的には楽器がメインになることは間違いありません。値段的にも最終的には最大の出費となることでしょう。しかし、だからといって楽器の方から選ぶのは、事、初心者に関しては「間違った購入」に繋がる可能性が大きいのです。
さて、「楽器の性能」というのは極論になりますが、「良い音が出るか、そうでないか」なのです(もちろんこの他にも「弾きやすさ」、「修理が利くか」などの要素もありますが)。一方、これが弓の場合になると、「演奏可能か、不可能か」になります。これは恐ろしいことです。演奏不可能な弓では、どんなに辛い思いをして、例え指から血を流しながら頑張って練習したとしても、「不可能」だからです。
初心者の当初の目標は、良い音を出すことではなく、正しい演奏技術を修得することです。私は演奏の専門家ではないので、この場で踏み込んだ技術論を述べるつもりはありませんが、それでも「ボウイング」が初心者の(プロの演奏者においてもそうだと思いますが)演奏技術の中核を占めるということは間違いないと思います。
さて、もしも最初にあまりにも腰のないフニャフニャな弓を購入してしまった場合には、弓に圧力を掛けて大きな音量でボウイングの練習をすることはできません。なぜなら、弓が潰れてしまうので、原理的にそれを勉強することが不可能だからなのです。この様な条件下で練習を積み重ねると、上達が遅いだけでなく、せっかく上達したとしても勘違いをした技術が身に付いてしまっているのです。事実、上手なアマチュア演奏者で、指使いは速いのに、ボウイングがフワフワとして音量が小さく、また音に切れがない人が多いというのは、まさにこの様な勘違いをした弓の購入からきているというのも一因であると考えられます。
- 楽器購入の計画(現在、楽器を借りている人の場合)
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高校生や大学生のように、もしも現在学校の楽器を借りている方が自分の楽器を購入したいと考えている場合には、まずは「良い弓」だけの購入を考えるべきでしょう。そうすることによって、現在の自分の予算を自由度を持って弓に割り当てられますし、それ以上に「良い弓」という事だけに意識を集中できるからです。
このようにして良い弓を手にすることによって、初心者としての練習が効率的に修得できるだけでなく、技術が上達することによって楽器を見る目も育つのです。すなわち、近い将来、楽器本体を購入するときに、よりプラスとなるわけです。
- 楽器購入の計画(楽器と弓を同時に購入する場合)
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私としては、先にも述べましたように、まずは弓のみを購入されることをお勧めします。しかし、まず楽器を購入しなければ練習自体ができない場合は、弓だけ先に購入してもどうしようもありません。このような場合には、楽器、弓、ケース、付属品のセットでの購入となります。
このような場合の購入においての注意点も、基本的には先に述べた通りです。すなわち、「良い弓」という事に対して、高い意識を持たなければならないということなのです。同時にセットで購入するとはいえ、まずは弓の方から選ぶくらいのつもりでいるべきでしょう。弓とはそのくらい重要な物なのです。
- 「良い弓」とは
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さて、ここまで「良い弓」という事を述べてきました。それではその「良い弓」とは具体的にどのような物なのでしょうか?これはその人の予算、技術などによって求める性能は異なってきますので一概には言えませんが、基本は「腰のある、強い弓」です。そして次に「バランス」、「重さ」、「製作精度」・・・等で厳選していきます。もちろん求める弓の性能(価格)によって、それらの絶対的な質が異なることは当然のことです。
このように良い弓の値段は、購入者の様々な条件によって異なってきますので、具体的な価格を述べることは不可能です。しかし、例えば、楽器にプラス数万円上乗せした場合のトータルクオリティーと、弓の方にプラス数万円を上乗せした場合のトータルクオリティーとでは、どちらの方がより効果的であるかは明らかなのです。
安い価格帯の弓でも、高い意識を持って選べば、実用上かなり満足できる性能の弓は確実に存在します。またその逆に、弓に対する高い意識をもって弓を選ばなければ、いくら高価な弓であっても必ずしも良い物とは限らないのです。これは何も弓だけの話ではありません。
- 良いケースも必要
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さてこれまでに、楽器購入時には「良い弓」を意識して選ぶべきということを書いてきました。しかしケースの事も忘れてはいけません。ケースの重要性についての細かなことは、別のQ&Aにて書いていますので、詳しくはそちらを読んでください。
せっかく良い楽器や弓を購入しているのに、おまけでもらったケースで、それらを傷めてしまってはもったいないことです。例えば安物の丸形ケースでは、最初から弓を正しく収納できません。また、程度(強度)の低い角形ケースでは、長年使っている内にケースの蓋が反ってしまい、収納している弓が知らず知らずに反ってしまっているということさえあるのです。
またこの他にも、意識して良いケースを購入することで、「楽器、弓に対する意識」を高めるという二次的な効果があります。これは、ケースの直接的な性能(物理的な意味での保護性能)よりも重要とさえ言えるかもしれません。
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