マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:どうしてコントラバスの修理・調整、製作だけ断られることが多いのですか?

A:確かにそうだと思います。私の工房でもヴァイオリンからチェロまではお受けしますが、申し訳ありませんがコントラバスはお断りしております。
 多くの方は、ヴァイオリンからチェロがヴァイオリン族なのに対して、コントラバスがガンバ族だから製作方法・修理方法が違うからだと思っていらっしゃるようなのですが、そうではありません。確かにコントラバスの理論、製作方法だけ少し異なっている部分もありますが、それは大した理由ではないのです。

 コントラバスが差別されてしまうその一番の理由は、その「大きさ」と言ってもよいでしょう。この大きさのために、製作、修理の道具にコントラバス専用のものを数多く必要とするのです。これはチェロに関しても当てはまることなのですが、チェロの場合にはそれでもヴァイオリンと共通して使う道具も多いのです。しかしコントラバスの場合、クランプの大きさなど「特殊」になってしまいます。そしてそれらは大きいために高価でもあります。コントラバスを扱うということはこれらの道具が揃っている必要があります。中途半端に揃っているようでは、中途半端な事しか行えないのです。

 最後に、一番の問題となるのは工房の大きさです。コントラバスを修理するためには大きな作業台が必要で、さらにコントラバスを数台並べておくだけのスペースも必要です。このような環境があって初めて「片手間」ではなく「専門的」にコントラバスの修理・調整、製作が可能になるのです。日本(特に大都市圏)では一番難しい問題と言えるでしょう。従って楽器店、工房側もよほどコントラバスに思い入れがない限り、なかなかコントラバスまでは手を出さないというのが正直なところなのです。


戻る