マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:弓チップは象牙製の方が性能が高いのですか?

:象牙製のチップは価格が高いということ、高級弓に用いられていることが多いということ等の理由から、象牙製のチップにこだわる方も多いです。しかし、象牙製のチップが万能というわけでもありませんので、それぞれのチップの特徴を知り、そして目的にあったチップを選ぶべきでしょう。

象牙チップの特徴
 象牙(現在は輸出入規制のため、マンモス象牙がほとんどです)製のチップの特徴は、「加工のしやすさ」と「艶」です。象牙が繊細な加工の美術工芸品に使われる理由と同じで、象牙の程良い堅さ(柔らかさ)と粘りけが繊細な加工に最適なのです。弓においても、チップに象牙を用いることで、綺麗な加工のチップが作れるのです。また、この象牙製のチップは磨き上げることによって、独特の艶を出します。
 象牙製のチップの欠点は、価格の高さは別として、その強度です。下で述べる「牛骨」製のチップと比べて柔らかいために、クサビ穴の左右が強度不足になり、割れてしまうことがまれにあるのです。この様に、値段の高い象牙チップですが、万能というわけではないのです。従って、あまり象牙チップにこだわるのもどうかと思います。
 ちなみに、多くの象牙チップには象牙独特の縞模様が見えますが、これが全く見えないものもありますから、見ただけで象牙製か牛骨製かを簡単に判別できるというものではありません。
牛骨製のチップの特徴
 牛骨製のチップの特徴は、その堅さです。その為に、チップとしての物理的役割のみの面からすると、最適と言ってもよいかもしれません。象牙製のチップに比べると堅く、壊れにくいのです。ある程度低価格というメリットもあります。
 欠点としてはその加工のしにくさです。堅く、そしてもろいために、象牙チップに比べると作業が困難です。また、象牙のような半透明の美しい艶が出にくいのも欠点と言えるかもしれません。
 外見は、象牙チップよりも白く、ほとんどの場合無地ですが、時々象牙製のような縞が見えるタイプもあります。
 実用的な面からすると、チップの標準材料と考えてもよいでしょう。
プラスティック製チップの特徴
 特徴と呼べるのは、その価格の安さだけです。プラスティック製のチップはとても柔らかいために、クサビ穴の周辺が変形してしまうのです。安い弓に初めから付いている分にはかまいませんが、もしもチップが取れてしまい交換作業をする場合には、可能な限り牛骨チップにするべきでしょう。


 この様にそれぞれの材質のチップには、それぞれの特徴があります。銘弓や高価な弓には象牙チップが付いていますが、特に象牙チップが高性能と考える必要はありません。象牙チップと牛骨チップは同レベルのチップであると理解し、その特徴が異なるのだという考えをすべきです。

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