マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:弓ネジの製作方法に見る、弓のグレード

A:今回は、弓ネジの金属部分の製作方法と、弓のおおよそのグレードとの関連を述べてみましょう。
 まずは下の写真の3つの弓ネジを見てください。まず最初に目に付くのは、左側の弓ネジの装飾貝の美しさですが、今回はこの要素は無視してください。今回述べるのは、銀(または洋銀)の8角リング部分の事についてです。
 この3つの弓ネジをよく見ると、上面中央の丸貝の周りに黒檀の輪があるまでは同じですが、その黒檀の外周と8角銀リングの内周の接している部分の形が違うことに気が付くことと思います。 

左の弓ネジの場合
 この弓ネジの黒檀部分は「円」の形をしています。すなわち、このような弓の製作方法は、まず最初に黒檀部分を旋盤で丸く削り、その周りに厚めの銀板を巻き付けるのです。そして最後にその円筒状の銀板の側面を丹念に削り、8角形の面を作っていきます。
 この製作方法では、多くの銀を削り落とす手間と、また材料費がかかってしまいます。すなわち、このような製作方法を採用している弓ネジの場合、その多くが中級弓以上のグレードである確率が高いのです。
中央と右の弓ネジの場合
 これらの弓ネジは、黒檀の外周部分が8角形をしています。この方法でネジを作るメリットは、銀(洋銀)板を事前に8角形のリング状に作り、それをはめ込むだけで完成するということです。すなわち銀(洋銀)板をいちいち削って、8角の面を出す必要がないのです。すなわち製造コスト削減の意味が強いのです。また、8角銀リングの部分が空回りをして外れてしまうというトラブル防止にも繋がります。
 この製作方法の欠点は、まずは見た目が良くないということです。ネジ端の面がカクカクして見えて、美しくないのです。これは上の写真を比較していただけば一目瞭然でしょう。また、事前に金属板を8角形に折り曲げ加工をするとうその製作の原理上、どうしても8角金属リングの板厚が厚くなりすぎる傾向にあるのです。例えば、上写真右のネジ弓の場合には明らかに厚めですし、中央の弓ネジにおいてさえ、左のネジと比べると銀の板厚が部分的に厚くなっています。これはすなわち、弓ネジの重さが必要以上に重くなってしまうという事を意味しています。すなわち、不自然なバランスの弓になる可能性が高くなってしまうのです。
この要素だけで弓の性能は決まらない
 当然のことですが、これまで述べてきた内容だけを見て、弓の性能を安易に判断しないでください。これはほんの一部分にしか過ぎません。それ以上に「弓竿の性能」の方がはるかに重要だということを、この場で念を押しておきます。

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