マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:裏板には、単板と2枚を中央で接着しているものがあります。単板の方が良いと聞いたことがあるのですが・・・。
A:おっしゃるとおり、裏板には単板のものと、2枚の板を中央で接ぎ合わせたものがあります。このご質問のように、単板の楽器の方がより高級品と思っている方も多いのですが、これは間違った情報です。
それぞれの裏板の特徴は、下記のように述べることができるでしょう。
- 単板の裏板
- *同じ品質の材料の場合、2枚ものと比べて2倍の太さの樹木を必要とするので、もしも同じ品質の材料を手に入れようとしても、なかなか入手しにくいです。従って単板の裏板の場合、2枚ものよりも質的に劣ることが多いのが実状です。その逆に、希ですが本当に質の良い裏板の場合には、希少価値がでることもたしかでしょう。
蛇足になりますが、私がドイツで見たヴァイオリン用の原木は、直径が60〜80cm
位でした。ですから単板の裏板が取れる物を探そうとすると、単純計算でこの倍の直径の原木が必要となるわけです(実際には、ギリギリの寸法の樹木から製材するので、そこまでは大きくないかもしれませんが)。
*木目が左右対称でないので、板が歪んで見える事があります。また、左右の収縮率が異なることによって、板が実際に歪むこともよく見受けられます。
*木目が左右対称でなく、さらに同程度質の2枚ものと比べて木目の幅が広いために、一般的に楽器の音色は柔らかめになることが多いような気がします。
*中央で板を接着していないので、その部分にトラブルが起きることがありません。
- 2枚板の裏板
- *単板ものよりも、品質の良い裏板が手に入れやすいです。従って2枚板の裏板には、上質の木材を使用していることが多いです。
*左右対称なので、収縮率も同じになり、将来的に裏板が変形することが少ないのは、大きなメリットです。
*左右対称なので、裏板が歪んで見えない。
*中央のニカワ付けが、はがれるトラブルが時々あります。
19世紀頃の西洋の楽器商の中には、単板裏板を「より価値のある・・・」と言うものもいました。この影響か、戦後の日本でも単板の楽器が重宝されたこともあります。これは現代においても、若干の影響を残しています。しかし上で述べたとおり、単板と2枚板ではどちらがより優れているというものではありません。極論すれば、単なる好みと言ってもよいとか思います(音色に、若干のキャラクター差はあるようですが)。
「裏板が単板か2枚板か」よりも、楽器そのものの作りの方が遥かに重要なので、固定観念にとらわれることなく、素直な目で楽器を見ることが必要なのです。
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