マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:弓の材料について教えてください。

:弓の材料の違いは一見したところ区別が付きませんが、その種類と材質によって、出来上がった弓の性能はまるで異なってきます。これは楽器本体が材質の違いから受ける性能差よりも、はるかに大きいのです。
 弓の材料と材質をご自分で見分けることはほとんど不可能なのですが、弓の材料を知ることによって、弓の性能の幅、そして価格の違いが納得していただけることでしょう。

フェルナンブコ材
 この木材は「ペルナンブコ」、「フェルナンビーコ」、「ペルナンビーコ」等、いろいろな呼び方があります。これはこの木材の産地であるブラジルの地名から来ています。
 フェルナンブコ材は良質弓材料の基本です。この木材の特徴は、とても曲げ強度に対して強いのです。また熱によって反りが付けやすく、そしてその反りが戻りにくいのです。これは弓材料として考えた場合、最適です。もちろん、このフェルナンブコ材の材質にも、まさに「ピンからキリまで」あります。従ってフェルナンブコ材の弓だからと言って、全てが「良質」というわけではないのです。しかしその逆に、良質弓でフェルナンブコ材以外の材料からできている弓は無いといってもよいでしょう(バロック弓などの特殊なものを除いて)。

 余談になりますが、弓材料は堅い木材であればよいというわけではないのです。例えば一見、黒檀でも弓は作れそうに思いますが、いざ黒檀を細く削ってみると、想像していた以上にフニャフニャで使い物になりません。この様に弓材料に適した木というものはそう簡単に見つかるものではありません。逆に、たまたま適した木を世界中から探し出してきてみたら、それが「フェルナンブコ材」だったというわけです。
ブラジルウッド
 正確にはこの「ブラジルウッド」という呼び方は、この種の木材の総称と考えられます。フェルナンブコ材もブラジルウッドの一部でしょう。しかし、弓の材料の話をする時には、ブラジルウッドとはフェルナンブコ材以外の木材の事を指します。
 ブラジルウッドもフェルナンブコも、製品となった弓(特に色が塗られている弓)を見た限りではその違いは分からないものです。しかし材料を削ってみると一目瞭然です。ブラジルウッドは茶色い色が多く、そして繊維の密度が粗いのに対して、フェルナンブコ材は削った瞬間には、その木肌はオレンジ色(個体差はありますが)をしています。そして最大の特徴は、繊維方向とは直角に、微細な縮れ模様が入っているのです。これは製品となった弓においても確認することができます(確認しにくいものもありますが)。
 ブラジルウッドは見た目がフェルナンブコ材と大して変わらないのに、その曲げ強度はどうしても劣ってしまいます。また、熱によって付けた反りが、長年の内に戻ってしまうということも重大な欠点なのです。この様な意味から、ブラジルウッドを利用した弓は、ヴァイオリン弓の場合で5〜6万円以下の初級者用弓に用いられます。
スネークウッド等
 バイオリン弓の初期の頃、すなわちバロック弓の頃には、まだ上記の木材は発見されていなかったのでしょう。バロック弓においては南アジアを産地とするスネークウッドが利用されました。この木材の特徴は、よく見ると縞蛇のような縞模様が入っているのです。この木材を利用した弓は、美観の意味で、とても魅力的です。これは楽器本体の裏板の虎杢模様と同じ魅力です。
 しかし、このスネークウッドはフェルナンブコ材等と比べると、その性能の低さは明らかです。従って徐々に使用されることは少なくなり、現在においては、弓の強度をあまり必要としない「バロック弓専用木材」という位置づけになっています。

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