マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:弓の値段は、楽器の何分の一がよいのですか?

:答えから申しますと、話しはそう単純なものではないということです。もっと様々な要素を踏まえた上で、弓を選択すべきです。
 「弓の値段は、楽器の何分の一か」ということが、そう簡単に言えるものではないというその理由を書いてみましょう。


「値段」の実体のなさ
 「値段」とは有って無いようなものです。同じものでも、売る人が変われば値段は変わります。特に古い楽器の場合はそうです。このような実体のない「値段」を基準にすると、矛盾が生じてきます。
 例えば同じ楽器を、別の楽器店で異なった値段で購入したとしましょう。そして、もしも「何分の一」という単純な理論で弓を購入したとしたら、それぞれで買うべき弓に違いが出てしまうのです。こんな馬鹿な事はありません。

 本当に重要なのは、「楽器の本質」と「弓の本質」とのバランスであって、それは値段同士の対比ではないのです。先のような理論にこだわっている人は、「安くて良い弓」を選ぶことを躊躇します。そして反対に「悪いけれど、高い弓」には飛びつくのです。これは楽器に関する正確な(理論的)知識が不足していいるまさに現れと感じます。
各楽器の値段との対比
 これは具体例をあげた方が判りやすいでしょう。例えば、10万円の楽器があったとしましょう。この楽器を演奏するのには5万円の弓を使っても、高すぎるということはありません。しかし2億円の楽器の場合、1億円の弓を使うべきなのでしょうか?私はそんな高い弓の存在は知りません。

 あまりにもくだらない例に、気分を害された方もいらっしゃると思います。しかし、「何分の一」という事にこだわるということは、このくらい間抜けなことなのです。
演奏者の経済状態
 これも大切な事です。例えば、今は楽器(または弓)のみに投資して、近い将来に弓(または楽器)をグレードアップしようという計画がある場合には、最初に買う弓(または楽器)の値段は安い物となるでしょう。ですから「何分の一」とは言えません。

 このように、各人の様々な要因を踏まえた上で、弓の値段は決定されるべきなのです。ですからそのためには楽器店(工房)にてじっくりと話し合いをすることが理想です。そして自分自身納得する事が大切なのです。

 多くの方は、目に見えないもの(=性能)の判断基準がはっきりしていません。ですから、どうしても目に見えるもの(=値段)に頼りたくなるものです。これは分からないわけではありません。しかし、一歩間違えると、値段と性能とを同じものと誤解してしてしまうのです。これは「高級ブランド物」=「おしゃれ」ではないということと全く同じです。中身と釣り合っていない、「高級ブランド物」は下品でさえありますね。楽器においても全く同じです。

Q&Aに戻る