マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:表板の色が左右で異なっていますが、違った種類の木材が使われているのでしょうか?
A:ほぼ全ての表板は楽器の中央で接ぎ合わさっています。普通は全く同じ板が使用されるはずですが、楽器をよく見ると左右で明らかに色が違っている表板も見かけます。ご質問はこの事についてのものだと思います。
- 左右の表板の色の違い
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表板が左右で色が違う理由として、2つが考えられます。1つめは、左右でまさに違った木材(当然、同種の木材ですが)を使用している場合です。この場合は、よく見ると左右において木目が異なっている事で判断できます。しかし、私の経験上は、このように左右において異なった木材を使用するということはほとんど見かけることはありません。
次に考えられるのは、全く同じ木材であるのに色が違ってしまうということです。これは表板の繊維の方向に原因があるのです。表板の色が左右で違っている、そのほとんどはこの事が理由だと考えられます。
- 表板の繊維の方向と色
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下図における斜線が表板の繊維方向を示しています。この繊維とは表板表面に見える「木目」とは異なります。そしてこれは、本来ならば表板底面と平行に通っているのが理想です。しかし多かれ少なかれ、ほとんどの木材の繊維は目切れてしまっているのです。少々専門的になってしまいますが、松材の「割材」とは、この目切れを可能な限り無くすための製材方法です。しかしこのような「割材」は、よほど良質な松材でなければ製材できません。多くの木材は効率の面で、どうしてもノコ挽きの製材を行います。従って上記のような「繊維の目切れ」が生じてしまうのです。
さて、この「目切れ」は図のように、左右で逆向きに出ます。従って光の反射率の関係で左右の色に差が生じるのです。その証拠に、楽器を反転させて見てみると、今まで明るかった方が暗く、その逆に暗かった方が明るい色に逆転するはずです。この事からも、この「色の違い」は木材の種類が違うのではなく、表板の繊維の目切れが原因であるということがわかるのです。
- 繊維の目切れの悪影響
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さて表板の左右で色が違うという事の仕組みはわかっていただけたと思いますが、さてこの「目切れ」による悪影響とはどのような所に出るのでしょうか?
それは「表板の強度の低さ(音色や後日のトラブルに影響)」、「ニスが薄くなったときに、汚れが染み込みやすい」、「見栄えの悪さ」、「修理時における楽器の傷みやすさ」の4つが挙げられます。
しかし逆の事を言えば、完璧なまでに繊維が真っ直ぐ通っている表板の方がはるかに少ないのが現状ですから、僅かな左右の色の違いはあまり気にする必要はないでしょう。と言うか、気にしてもはじまりません。しかし、楽器を購入する時点においては、明らかに表板の左右で色が違う場合には、この「デメリット」を考慮の対象に入れても良いのではないでしょうか。
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