マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:弓のフロッシュ雄ネジ(8角ネジ)を他の弓のものと交換しても良いですか?
A:時々、ネジが壊れたからといって、手持ちの他の弓のネジを装着している人がいますが、私はお勧めしません。大きく分けて2種類の不具合が考えられるからです。
- デザイン、品質(素材)上の問題
- これまで私の工房にいらした方の中にも、何人かフロッシュネジをご自分で交換してしまった人がいました。また、他の楽器店において勝手に交換されてしまったという人も何人もいました。しかし、そのほとんどは弓の品質やデザインと、ネジのそれが合っていないのです。
例えば銀を用いたフロッシュの弓のネジが壊れたからといって、洋銀製のネジを付けてしまうとせっかくの弓が台無しになってしまいます。先の、「楽器店で交換されてしまった」といった方の多くはこのようなトラブルです。いくら低価格で交換修理をしてもらったからといっても、これでは余りにも安易すぎる修理です。同様に、金弓なのに銀製のネジに交換されてしまったという事例もありました。これではせっかくの弓が台無しになってしまうのです。その逆に、洋銀製の弓に銀製のネジを装着することはまだ良いと思います。
また専門的には、フロッシュのデザインと8角ネジのデザイン(3ピースなのか、銀1ピースなのか、その他の素材なのか)には統一性があります。従って、安易に手持ちの別のネジを装着してしまうと、せっかくの弓がアンバランスで見窄らしくなってしまいます。低価格の弓ならば、そのような交換でもかまわないかもしれませんが、ある程度以上の弓の場合には、まずはきちんとした技術で壊れたネジの修理を行うべきと思います。それでもダメな場合には、様々な要素を踏まえた上で、きちんとした交換作業を行うべきでしょう。
- 雄ネジの種類の問題
- 次の問題点は、雄ネジの種類には異なる種類があるということです。下の写真を見て頂ければ判ると思うのですが、上から「インチピッチネジ」、「ミリピッチネジ」、「古フランスピッチネジ」、そしてこの写真には写っていませんが「イレギュラーピッチネジ」が存在します。当然、それに合った専用の雌ネジ(写真左)も存在します。
現代弓の多くはインチピッチネジですが、ミリネジも存在します。ミリネジだと、ピッチが細かすぎてフロッシュの操作が素早くできないために、あえてインチネジが広く用いられるのだと思います。一方、古フレンチピッチネジの場合には、現代の工業規格と異なるということ、少しピッチが広すぎるという意味から、新作弓においては特殊な部類になります。どちらかと言えば古い弓の修理用といった感じでしょうか。
このように一見したところどれも同じに見えるネジにも、様々な種類(イレギュラーピッチも含めると)のネジが存在します。従って、専門的な知識なしに他のネジを無理やり差し込んでしまうと、フロッシュの雌ネジ山が壊れてしまうのです。
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