マイスターのQ&A
Q:毛替え後、松ヤニの塗りやすい毛と塗りにくい毛がありますが、この違いは何ですか?
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
A:毛の質が目に見えて極端に悪い場合などは、松ヤニの付き具合も違ってきます。しかし、ご質問の場合はそのように目に見えて毛の質が悪いということではないと思います。次の理由によるものでしょう。
- 馬毛への「リンス」と松ヤニの乗り
- 馬毛は人間の髪の毛と同じで、乾燥や摩耗によってかなり傷むものです。毛が絡まったり、または枝毛になったりしてしまいます。こうなっては商品価値が落ちてしまいます。従ってそれを防止するために、馬毛業者(または馬毛を仕入れた後)は、馬毛に油分を付けるのです。人間の「リンス」と同じと考えてもよいでしょう。こうすることで長期間良好な保存ができるのです。
さてご質問の「松ヤニの乗り具合の差」というのは、馬毛に施されているリンスの差によって起こってるのです。多めに施されている毛はどうしても松ヤニが乗りにくいのです。この様な毛は、本来ならば毛替えの前にきちんと油分を取り去らなければならないのですが、一旦付いた油分はそう簡単に取り去ることができるものではありません。毛替え後に松ヤニを塗ろうとしても、ツルツルと滑ってしまい旨く塗ることが出来ないのはこのためです。
一方、油分のほとんど施されていない馬毛の場合には、松ヤニは簡単に塗ることができるはずです。
- 松ヤニの上手な塗り方
- 油分の比較的多く付いた馬毛でも、一旦松ヤニが毛にまんべんなく付着すると、弦との摩擦力に不都合は生じないはずです。従って、あまり神経過敏になる必要はないと思います。一番最初の松ヤニ塗りがきちんと行われればよいのです。
最初の松ヤニ塗り作業の時に、上記のようなツルツルと滑って塗りにくい毛の場合、どうしてもムキになって松ヤニを強く擦り付けてしまいがちです。しかし、これは逆効果なのです。松ヤニを強く、速く擦り付けると、松ヤニの表面は摩擦熱によって溶けてピカピカになってしまいます。これではますます摩擦が少なくなり、松ヤニは塗りにくくなるのです。悪循環です。
松ヤニが塗りにくい時こそ、冷静にゆっくりと松ヤニを擦り付けるべきなのです。
余談になりますが「粉松ヤニ」や「液体松ヤニ」というのは、松ヤニを塗るための前処理として、毛にわずかに松ヤニを手っ取り早く付けて、その後の松ヤニ塗りをしやすくするための特殊松ヤニ(成分自体は同じですが)なのです。
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