マイスターのQ&A                   ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:ニスが剥がれやすいのですが、どうしたらよいのでしょうか?

:ニスの剥がれということですが、その症状にはいくつかのケースがあります。

細かく、ポロポロと剥がれ落ちる場合
 これは元々のニスが硬すぎるために起きるのです。少しぶつけただけでも、ニスが剥がれてしまうので、楽器全体にわたってニスが傷むのが特徴です。そして剥がれた部分にニスを足す修理を行っても、またいずれ別の部分が剥がれ落ちてしまいます。

 このような楽器の場合、そのユーザーは「ニスを塗り直した方が良いのでは?」と考えることが多いですが、私の考えでは「塗り直し」はお勧めしません。というのは、塗り直すことは大変な手間(修理代金)がかかる割に、それに匹敵するようなメリットが得られないからです。ですから、ニスの現状がよほど悪い場合を除いて、これまで通り、ニスが剥がれたら「こまめにニス修正」というのがよいと思います。こうすることによって、剥がれたニスの断面を新しいニスで固定し、さらに悪化することを防げるからです。
 このような楽器の場合、「ニスが剥がれるのは当たり前」という割り切りが必要です。もしも楽器全体にわたって、どうしようもないくらいボロボロにニスが剥がれ落ちたとき、そのとき初めて「ニスの塗り直し」を考えればよいでしょう。
楽器の肩の部分等、手とこすれる部分がはげている場合
 これはどの楽器でも起こる普通の症状です。
 この時に注意すべき事は、木の地が出てしまっていると良くないということです。このような状態になるまでニス修理をしないでおくと、木に汚れや汗が染み込んでしまうのです。こうすると木材が湿って変形してしまったり、また、後でその上にニスを塗った場合でも、汚く仕上がってしまいます。
 現在、手のこすれる部分が黒っぽく汚れている場合や、または木地が見えている場合には、できるだけ早めにニス修理をすべきでしょう。こうすることによって、楽器の傷み具合は最小限に抑えることができます。
ニスにヒビが入っていたり、またシワがよっている場合
 これは元々のニスの質が悪かった場合の他、楽器を高温状態下に置いてしまったり、また、クリーナーなどの薬品との相性が悪かった場合に起こります。また、汗や松ヤニなどの掃除をしないで、さらにその上からニス修理をしてしまった場合にも起こります。
 この場合には、楽器の見栄えが悪いので、ニス表面の修理を行うのがよいと思います。方法としては、ニスの表面をほんの少しだけ削り落とし、磨き直すだけで症状が改善する場合もあります。重傷の場合には、透明ニスを割れ目に塗り込んで、表面を再び平らに磨き直すという方法が採られます。
ケースの痕が付いてしまっている場合
 裏板など、ケースの跡が細かく点々と付いてしまうことはよくあります。これはあまり神経質になることはないでしょう。
 良質なニスはある程度柔らかなものなので、どうしてもケースの跡が付いてしまうこともあるのです。もしも症状が酷い場合には、表面に少し固めのニスをほんの一層だけ塗って、ニス表面をコーティングしてしまう方法もあります。しかし一番良いのは、あまり神経質にならないことです。ニスを大きくいじると、将来、退色度合いが異なって、ニスがまだらになってしまうことも多いからです。
 もしも、これが「痕」ではなくて「傷」でしたら、それはケース自体が悪いので、至急ケースを交換すべきです。

 ニスの傷みを、こまめに修理することはとても大切なことです。しかし、重箱の隅をつつくような、神経過敏ではいけません(新品の楽器所有者に多いようです)。必要以上の大きなニス修理は、将来的にニスのバランスを崩してしまうからです。ですから必要最小限で、かつ、確実なニス修理を行うべきなのです。

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