マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:ナイロンガットとはどのような弦ですか?
A:「ナイロンガット」とは弦の芯材の材料のことです。そして、弦を芯材によって分類すると、「ガット弦」、「ナイロンガット弦」、「スチール弦」の3種類に分けることができます。すなわちナイロンガット弦とは、ある特定の弦を指しているわけではないのです。
- ナイロンガットの素材
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弦の分類が先の3種類あるということは、ほとんどの方がご存じのことと思います。しかし「ナイロンガット」に関して混同している人が多いのです。というのは、ナイロン「ガット」という言葉が付いていますので、ガット弦と混同してしまいがちなのです。
さて、話は単純です。「ガット弦」とは天然ガット(羊の腸)弦の事を指し、「ナイロンガット弦」とは化学(疑似)ガット弦のことです。従って、ナイロンガット弦とは、ガット弦とは全く関係ない弦なのです。ただ、以前は弦といえばガットでしたから、化学的に作った弦を「疑似ガット」と呼んだことはごく自然なことです。またテニスのラケットを見ると分かりやすいのですが、初期のナイロンガットは、見た目も天然ガットとナイロンガットでは極端な違いはありませんでした。
しかし、最近はナイロンガット弦の進歩はすさまじく、その形態も、素材も様々です。単に見た目だけの面でも、以前のような「ガット弦」のような、または釣り糸のような形ではなく、非常に細かな繊維を束にして利用している弦がほとんどです。この様な弦に対して「ナイロンガット」という表現では誤解を生じてしまうようになったのです。本来ならば、「化学繊維弦」というのが適切な呼び方でしょう。
- ナイロンガット弦の商品例
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ナイロンガット弦と言えば、「ドミナント」を思い浮かぶことでしょう。ナイロンガット弦の事をドミナント弦と勘違いしている人もずいぶんと多いくらいです。このドミナント弦は、トマスティック社の開発した、初めての性能の高いナイロンガット弦と言ってもよいでしょう。その後にピラストロー社などの他の弦メーカーが何度も「ドミナント・キラー弦」を開発しては、その性能の前に敗れ去ったほどの良くできた弦です。
最近になってようやく、「トニカ」や「アリアンス」などの、ドミナントに正面から対抗できる、ドミナントとはまた特徴の異なった弦も普及し、ナイロンガット弦の選択肢も増えて、この種の弦はヴァイオリン弦においては中心的な役割を果たすようになってきました。
さて、この様な弦の中でどの弦が一番性能が良いか、そのように簡単なものではありません。楽器の発音特性などによって、求める弦のキャラクターが全く異なってくるからです。弦を選ぶときには、きちんと技術者と相談してから選び、購入し、そして調整をすべきです。
- ナイロンガット弦の音色的特徴
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先に述べましたように、同じナイロンガット弦でも、それぞれの商品(例えば、ドミナントやトニカ)では音色は異なります。しかし、他のガット弦やスチール弦と比べると、ナイロンガット弦としての特徴もあることは確かです。ここでは、その特徴についてのみ書いてみましょう。
ナイロンガット弦の特徴を簡単に説明すると、「中位」です。すなわち、ガット弦とスチール弦の、ちょうど中位の特徴を持っているのです。これはガット弦にもスチール弦にも無い、独特の世界です。もっとも、それはガット弦やスチール弦にも言えることですが・・・・。
ナイロンガット弦は、ある程度のしなやかさを持ち、そしてしかし、ガット弦と比べると非常に強い張力で張ることができます。このために、品の良い、しかし張りのある音が出るのです。また、チューニングのし易さなど、使い勝手も悪くありません。自分の楽器にあった弦さえ選べば、初心者からソリストに至るまで、満足して使える性能を持っています。
- ナイロンガットの短所
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この様な、とても使いやすいナイロンガット弦の唯一の欠点は、その弦の劣化速度にあると言えるでしょう。弦の付いている楽器のキャラクターにもよりますから、単純には言えませんが、ごく簡単に説明すると、ナイロンガット弦は初期(音色)性能からの変化が他の弦に比べて激しいのです。具体的には、音に張りが無くなり、モコモコした感じになりやすいのです。楽器の所有者は、毎日(または頻繁に)楽器に接します。そうすると、その音色の連続した微妙な変化に気が付きにくいものなのです。従って、ナイロンガット弦の音がモコモコして、音が出なくなっているのに全く気が付かないことさえ多いのです。
ナイロンガット弦の寿命は、弦の種類(商品)によっても異なりますし、または楽器のキャラクターによっても異なります。例えば、元々が明るい音の楽器の場合には、ナイロン弦が馴染むのに(求める音色になるのに)時間がかかる反面、寿命も長いものです。その逆に、音の柔らかなタイプの楽器の場合には、ナイロン弦が馴染むのには時間を必要とせず、そのかわり寿命も短いです。場合・人によっては、2ヶ月も経たないうちに「寿命」という人もいます。
この様に、弦の寿命を一言で言うことはできませんが、大ざっぱな予定としては、「半年以内に交換」と考えればよいでしょう。
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