マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:楽器を使った後に、弦は緩めた方がよいのですか?
A:これは楽器の健康状態、保管しておく期間、チューニングのピッチ、弦の種類等の違いによって対処の仕方は変わってきます。
- 一般的な場合
- ほとんどの楽器場合には、演奏後に弦を緩める必要はないと思います。それどころか、頻繁に弦を緩めたりきつく張ったりすることによって、楽器に加わる力の状態が変化し、楽器に悪影響を与えてしまうことも考えられます。
楽器の健康状態(構造的な強度)が良く、演奏も週に1回位以上行っている方は、弦を特に緩めておく必要はないでしょう。
- 楽器の健康状態が不安な場合
- 古い楽器で表板の歪みが大きい楽器、または新しい楽器の場合でも、表板が薄すぎて強度的に心配な場合には、弦をほんの少しだけ緩めた方がよいかもしれません。
弦の緩め方のポイントは、緩めすぎないということです。緩めすぎると、魂柱や駒が倒れてしまったり、または楽器に加わってる力の状態が急激に変化し、トラブルが生じる場合があります
弦は半音も緩めれば十分でしょう。また、張力の一番強い「1番弦」だけを若干緩めるという方法を採っている方も多いようです。
- チューニングのピッチによって
- 上記で述べた楽器を除いて、一般的な442Hz以下でチューニングしている場合には問題はないと思います。しかしそれ以上のピッチでチューニングをしている場合には、演奏後に弦を緩めた方が安全です。
- 長期保管の場合
- 楽器を1ヶ月間ほど演奏しない場合には、全ての弦を半音ほど下げた方がよいでしょう。
楽器を半年間以上保管しておく場合には、駒が倒れない範囲で弦を緩めに張って置くようにしてください。この時のポイントは、ペグをきつめにくい込ませておくことです。というのは、保管期間中の湿度変化によって、ペグは急激に緩んでしまう場合があります。こうなると駒が倒れてしまい、楽器を壊してしまう場合もあるからです。
- 長時間の運搬
- 国際線の飛行機や長距離旅行時などは、弦を少しだけ(半音ほど)緩めておいた方がよいでしょう。というのは、このような運搬時には、楽器には振動、温度変化、気圧変化等のストレスが加わるからです。この時も、ペグはきつめにくい込ませておいた方がトラブル防止になります。
- 弦の種類との関係
- これまで書きました内容に、さらに弦の種類による要因が加わります。簡単に言いますと、「強い張力の弦を張っている場合には神経質に」ということです。例えばガット弦を張っている場合には、あまり神経質にある必要はありません。というのは、ガット弦は湿度変化などに対して、自らが伸縮して楽器のストレスを分散します。また、元々の張力自体がさほど高くないので、トラブルは起きにくいのです。
一方でスチール系の強い張力の弦を使用している場合には(特に1番弦)、より神経質にならなければなりません。ただし、最初にも書きましたように、普段頻繁に演奏をされている場合には、弦をそのたびに張ったり緩めたりすることは逆効果にもなりかねませんので気を付けてください。
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