マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:弦の袋に表記されているMittel、 Stark、Weichとは何ですか?

:これはドイツ語で「ミッテル」、「シュタルク」、「ヴァイヒ」と発音し、その意味は「中くらい」、「強い」、「柔らかい」です。これはこの弦の製造メーカーがドイツ語圏のメーカーだからでしょう。具体的には、ポピュラーなところではピラストローやドミナントがそれに当たります。
 また時々、イタリア語で「フォルテ」、「ドルチェ」と呼んだりすることもあります。これはこの言葉が音楽用語として定着しているという事の他、古くは弦の量産はイタリアで盛んだったということに由来しているのかもしれません。
 さて、このような表記は弦の強さの事を表しているのです。弦の特徴の微妙な違いといってもよいと思います。よくこれを弦の太さと勘違いしている人がいますが、必ずしもそうとは限りません。弦によっては、巻線の巻き方(弦の構造)によって変化を持たせているものもあるからです。しかし、基本的には「弦の太さ」の違いと考えてもよいと思います。

同一弦の異種
 同じ弦の中にも幾つかの異なるタイプが存在します。よくあるのは「銀巻線」、「ヴォルフラム(タングステン)」等の全く異なる金属を使用して作った特殊タイプです。しかしこれ以外にも、上記の「ミッテル」、「シュタルク」、「ヴァイヒ」の3タイプが存在するのです。
 これらの違いは、前記の特殊弦がかなり性格の異なったタイプの弦であるのに対して、後記の3種類の弦は、「微調整」的な種類と考えてもよいと思います。すなわち、基本的な特徴は共通なのです。今回は「特殊弦」については置いておき、後者の3種類の違いについてだけ考えてみましょう。
ミッテル、シュタルク、ヴァイヒの特徴
ミッテル弦
 楽器にすこし詳しい人は、意図的にこれらの異なる種類の弦を使い分けているようです。しかし、安易な気持ちで使うべきではありません。というのは、私のこれまでの経験では、「ミッテル」弦の性能が一番良いからです。それもそのはずです。弦のメーカーは色々な設計、試行錯誤の中から一番性能の良いものを選び出し、それを「ミッテル」としているからなのです。「各特徴のバランスが整っている」と言ってもよいかと思います。もちろん「シュタルク」や「ヴァイヒ」にはそれぞれの特徴があります。しかしそのデメリットも覚悟しなければならないのです。
シュタルク弦
 シュタルク(強)弦の特徴は、弦の張力が増すことによって、音がカチッとして力強くなることです。高倍音が出るのです。従って音の丸い楽器に付けると効果的です。しかし、安易な気持ちで用いるべきではありません。というのは、このシュタルク弦は弦の剛性が高いために発音のレスポンスが鈍いからです。下手をすると、弓の毛で弦を引っかけることができなくて、かすれた音になってしまうのです。
 また、弦の剛性が高いということは倍音成分に乱れが生じるということです。すなわち音程感が無くなるデメリットも併せ持っているわけです。シュタルク弦を使う場合には、これらのデメリットを覚悟した上で使うべきです。
ヴァイヒ弦
 ヴァイヒ(柔)弦の特徴は張力が低い事です。このために弦を引っかけやすく、発音のレスポンスがよいのです(演奏も楽になります)。この効果を安直に求め、ヴァイヒ弦を利用している人が非常に多いのです。しかし、注意が必要です。そのような弦を利用した場合、レスポンスの良さと相反して、楽器の音に張りが無く、また音量も減ってしまっているからです。
 ほとんどの楽器の場合、「音量」と「音の張り」を犠牲にしてまで、ヴァイヒ弦を必要とすることはありません。ヴァイヒ弦とはその位、特殊な弦と考えてもよいのです。
どのような場で利用すべきか
 基本的には、ミッテル弦を利用すべきです。なぜならば性能が良いからです。そして都合の悪い箇所は、楽器本体の根本的なところで調整すべきなのです。
 しかし、例えばヴィオラ等において楽器の寸法が小さい場合にはシュタルク弦を用いることによって、弦の張力を「標準的」にできるなどの効果的な利用方法もあります。
 ヴァイオリンの場合でも、調整によってどうしても調整しきれなかった場合、または楽器の特徴から、どうしてもシュタルクやヴァイヒ弦の方が適当と思われることもあります。しかし、これはほんの一部と考えるべきでしょう。基本は「一番性能の良いものがミッテル」なのだという考えを持つべきです。また、良い楽器とは、弦の小細工をしなくてもきちんと音が出る楽器なのです。 

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