マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

Q:独学でヴァイオリン(弦楽器)演奏を勉強する事は可能ですか?

A:私はヴァイオリンの演奏の方のプロではないので、演奏の専門技術のに関しての返答はできません。しかし、一番基本的で重要な部分に関しては「独学でのヴァイオリン製作」と同じ事が言えますので、それを元に私の考えを書いてみます。
 アマチュア演奏の真の目的は、プロのそれとは全く異なります。プロのそれは「良い演奏」、「人を感動させる演奏」、そして最終的には「演奏で食べていく事」です。これに対してアマチュア演奏の目的は、「音楽、演奏によって幸せになる事」です。もちろんその過程において「アマチュアなりに上手になること」などはありますが、それはあくまでも過程でしかありません。究極の目標は、演奏する事によって、または音楽と関わる事によって幸せになる事です。
 その意味から言うと、独学によって自己流の演奏を行ったからといって、全く問題はないとも言えます。しかし、私はそれはどうかと思うのです。

独学のデメリット
 先にも述べましたように、アマチュア演奏の目標は自分自身で納得して、演奏を楽しむ事です。そのような意味で、独学で自分自身で納得して練習を積み重ねる事は、一見良いようにも思えます。誰に迷惑をかけるわけでもありません。しかし、私は基本的に独学には反対です。
 独学している人は、どうしても自分自身の価値観や、自分自身の技術の中だけで物事を考え、実行しています。このような方とお話しをすると、本人は大きな視野で物事や技術を考えているように思っていますが、客観的に私が見ると、実に狭い視野しか見ていないのです。ちょっと失礼な言い方になってしまいますが、「井戸の中の蛙・・・」と全く同じです。世界はもっと広く、そして楽しいのです。もちろん、目の前の荒波もあるでしょうし、順風満帆に目的が達せられるわけではありませんが、言える事は「世界はもっと広く、そして楽しい」です。

 これはヴァイオリン製作に関しても同じ事が言えるのですが、独学で技術を向上させるためには、自分で自分を越えなければなりません。しかし、これはある意味、不可能に近いものがあります。自分で自分の価値観以上のものを得るためには、または自分で自分に無い技術を得るためには、自分の価値観を一旦殺し(抑え)、他人(師匠)に教えらもらう事が必要になります。これが我々の世界で言う、「弟子の時期」です。ヴァイオリンの演奏に関しても、基本は同じだと思うのです。

 また、ヴァイオリンの先生から学んだり得たりできるものは「演奏技術」だけではありません。それ以外にも「音楽との向き合い方」、「楽器や楽器店などのアドバイス」、「発表の場」、「客観的なアドバイス」そして「別の音楽仲間との接点」などが挙げられます。独学で行っていると、どうしてもこのような「それ以外」のものを得る機会が無いのが実情です。
まとめ
 もう一度書きますが、アマチュア演奏の目標は、「幸せになる事」です。しかし、どうせ目指すのでしたら、より大きく、そして奥深い「幸せ」を目指すべきと思います。他人(先生)にヴァイオリン演奏を教わるためには、金銭的な負担だけでなく、自分自身の勝手な考えを抑えて(これが重要なのですが)辛抱強く学ばなくてはなりません。これは一見「幸せ・楽しみ」とは逆行しているように思われるかもしれませんが、どうか我慢してください。絶対にそれだけの価値はありますから。私は自信をもって言えます。
 もしも現在、独学で演奏してる事で限界を薄々感じている方は、是非、素晴らしい先生と出会ってください。今までとは違ったヴァイオリンの魅力を再発見できるはずです。
 但し、どこにその「素晴らしい先生」が居るのか、その答えはありませんので、それを行うのはご自分の努力次第です。

 ただ、あんまり深刻に考える必要はないと思います。深刻に考えすぎると、ろくなことはありません。もっと気楽に楽しみましょう!


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