マイスターのQ&A ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
Q:チェロのエンドピン(棒)によって、音は変わりますか?
A:楽器の全ての部品は、直接的に、または間接的に音に影響します。そしてチェロの場合には、エンドピンは音に大きな影響を及ぼします。
チェロのエンドピンの2つの要素
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1・ネジ部の性能
- 高価(良質)なエンドピンと、普及品との差は、このネジ部分に表れます。良質な製品の場合には、棒の直径と、棒を差し込む穴と、締め付けるネジの精度が良いので、無理な力をかけずにエンドピンの長さを調節できます。
これは一見音には関係ないようですが、大切なことなのです。なぜならばこの作業は、演奏をするのに毎回行わなければならない作業だからです。たとえ一回でも、演奏中にエンドピンがずれてしまったりすると、どうしても楽器に対して不信感が出てしまうのです。これでは間接的ですが、良い演奏にはつながりません。
また、ネジ部の精度の悪さ(ガタつき)によって、雑音が生じてしまうということもあります。
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2・棒の剛性+質量
- 楽器の発音は、表板の中央部分だけが振動して発音しているわけではありません。楽器の周辺部分の振動も、大きく影響しているのです。従って、そこを支えているエンド棒の材質を変化させることで、音質は大きく変化するのです。
ここでエンド棒の材質と、音の変化についておおざっぱに書いてみましょう。もちろんこれは材質のみの話であり、その他にも上記の「精度」、そして「エンドピンを交換する技術」などの総合によって、音の良さは変わってきます。
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普及品
- これはパイプ状の棒であることが多いです。重さはちょうど中位といってもよいでしょう。このランクの製品の場合、棒の中が中空になっているとか、その重さの問題ではなく、棒の材質の表面仕上げが悪いことがあげられます。このためにエンド棒がずれやすくなってしまいがちです。また材質が柔らかめのために、先端のとがっている部分がすぐに丸くなってしまいます。
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重量タイプ
- この代表は「WEISSHAAR」という製品でしょう。作りも(精度)、美観もとても良くできています。このタイプは、楽器の周辺部分の振動をがっちりと抑えるために、楽器の音は「丸く」なります。低音はより豊かになるでしょう。音のヒステリックな楽器の場合には、このタイプのエンドピンをお勧めします。
また超重量タイプとしては、金と同じ比重のタングステン棒を使用したエンドピンも存在します。このエンドピンを使用すると、音はさらにまろやかになるでしょう。しかし音の張りが無くなってしまうので、どの楽器にも勧められるものではありません。また、楽器が重くなってしまうというデメリットも生じてしまいます。
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軽量タイプ
- このタイプの代表は「チタン製」です。このタイプは楽器の周辺部分の振動を妨げないので、楽器の音はとても明るい感じになります。
最近では超軽量タイプとして、「カーボンファイバー製」の製品も開発されました。この製品になると、その軽さは今までの製品とはまるで違うので、音の変化もはっきりと分かります。
多くの楽器の場合、音はどうしても「こもりがち(音に張りがない)」の傾向にあります。従って、そのような場合にこのタイプのエンドピンに交換することによって、音は良くなります。
またこの軽量タイプのエンドピンのメリットは、楽器が軽くなり、取り扱いが楽になるということです。このために楽器をぶつけたりする確率が減り、それは長い目で見ると楽器の性能の劣化を確実に防ぎます。
上から、低価格品、中級品(WEIDLER)、重量タイプ(WEISSHAAR)、超軽量タイプ(GEWA-カーボンファイバー)
これまでもチェロのエンドピンについては、様々な情報が流れていました。「エンドピンは床に振動を伝えるために、剛性の高い方が良い」、または「軽い方が、音が良く出る」、等々。これらはどれも間違いではありません。しかし、どれか一つの情報のみを信じてしまうと、それは間違った知識となってしまうのです。
チェロのエンドピンは、その楽器の特性によって、適切な製品を選んで初めて性能が発揮されるのです。決して、値段の高い製品が、その楽器に対して良いとは言えないのです
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