マイスターのQ&A
ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗
もう一人の先生を
音楽だけでなく、スポーツ、仕事など全ての事について言えるのですが、上達するためのポイントは「自分の殻(=器)は外から破る」という事です。というのは、自分の殻を内側から破ることは至難の業だからです。もっと具体的に言うのならば、「自分自身の考えを、自分自身で超えることは難しい」のです。
「上達」するためへポイントはいくつかありますが、大きく分けると次の2つが挙げられます。
- 1. 頭で身体を引っ張る
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天才でもないかぎり、身体が自然に反応することは不可能です。まして歳をとってからはなおさらです。
それではどのようにして身体を動かすのか?それは頭を身体の半歩前に出し、頭で身体をリードすることです。すなわち「理論・原理」を勉強することです。
- 2.心から信頼できる先生をもつ
- 自分自身でいくら頑張っても、人間というものはしょせん自分の価値観でしか行動できません。そこで重要になるのは「先生」です。自分自身の価値判断を抑え、他人である「先生」のアドバイスに耳を傾けることで、自分自身の殻を外から破る(打破する)ことが出来るのです。これは我々の「弟子教育」でも同じ、とても重要なことです。ちなみに、この「先生」とは何も楽器の演奏の先生(演奏家)だけでなく、楽器店(技術者)なども含みます。
この「先生の重要性」に疑問をもったり、否定的な方はほとんどいないことでしょう。
- もう一人の先生をもつ
- 上で述べましたように、「先生」は重要です。「その上で」という話ですが、「もう一人の先生」をもつことも出来ます。その「もう一人の先生」とは人ではなく、「客観的な自分自身の目」、または「他人の視点」です。
自分自身を客観的に見つめることはとても重要です。スポーツと一緒で、「演奏の上達=正しい動き」とも言えるので、自分を見ることはとても重要なことなのです。実際に撮影して、観察してみると驚くと思いますが、自分自身の動きや姿勢というのは、自分自身が普段イメージしているものは違っているはずです。
自分を見るための道具としてまず思い浮かぶのは「鏡」です。もちろんこれでも役に立つのですが、鏡の欠点は「鏡を見ながら演奏しようとすると、姿勢が不自然になる」、「演奏と観察を同時に行わなければならない」ということです。
そこでお勧めする「もう一人の先生(他人の視点)」とは、「ポータブル録音機」であったり、「ビデオカメラ」なのです。最近のビデオからは小さく、価格も比較的安く、画質もハイビジョン画質です。さらに液晶モニタをクルッと反転させて、自分の向きに映すことが出来ます。「自分撮り」がしやすいのです。
また、最近のビデオカメラはメモリ記録タイプだったりするので、気軽に撮影して、気軽に再生することが出来ます。
ビデオカメラの最大のメリットは、演奏後の別な時間に、動いている自分自身をまるで他人の目のように見ることができるということです。タイムマシンで時間をさかのぼり、自分自身の練習を観察しているといってもよいほど、凄い「マシン」なのです。このような観察行為は「上達」するために重要かつ効果的なことです。
スポーツの世界では映像を使ったコーチングは当たり前です。しかし音楽の世界では、その点は遅れています。このようなハイテク機器も積極的に活用すべきと思います。
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