マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:ヴィオラの大きさはどのくらいがよいのでしょうか?

:一般に、日本人は体格が欧米人と比較して小さいので、ヴィオラの「日本での標準」が若干小さくなるのは仕方ないと思います。しかし注意も必要です。というのは、「自分は背が低いから(または、指が短いから)・・・・」と思いこんで、必要以上に小さなヴィオラをあえて使用している人が多いのです。これは特に、アマチュア演奏者に見受けます。

ヴィオラの大きさと音色
 ほとんどの方は、ヴィオラの胴体が大きくなることは、豊かな低音につながると思うことでしょう。これは正しいです。ヴィオラの長さに対して、体積は単純計算で3乗の割合で大きくなるので、大きなヴィオラと小さなビオラとの胴体の容積はものすごく違います。この差は、「朗々とした低音」に、明らかに差が出ます。

 しかし重要なことはそれだけではありません。楽器が大きくなると言うことは、低音のみならず高音にも影響があるのです。この事は意外な盲点です。
 ヴィオラ用の弦は41.5cmから42.5cm位を基準に設計されていると考えられます。これは金属巻線と、巻糸の長さからある程度想像できるのです。このような弦を小さなヴィオラに張ると、弦長が短いために、その張力が弱く張れてしまいます。このような弱い張力の弦からは、「張りのある音」は出ないのです。
 余談になりますが、小さなヴィオラを使っている人で、「小さなヴィオラには弱い弦」と思いこんでいる人が多いのです。しかしこれは全く逆です。小さな楽器には、強い弦を張らなければ、弦が緩なりすぎるのです。

 このように小さなヴィオラの場合には、豊かな低音や、張りのある高音にはどうしても限界があるのです。どうしても音が薄っぺらになりがちです。音に艶が出にくいと言ってもよいかと思います。
ヴィオラの大きさを選択するときの注意点
 最初にも書きましたように、(特にアマチュアの演奏者は)どうしても弾きやすいヴィオラを選んでしまいます。すなわち、小さなヴィオラに好印象を持ってしまうのです。演奏者はどうしても「現在の自分の基準」しか目に入りませんから、自分の体に染み込んでいない大きさのヴィオラに対しては、「演奏不可能」と思ってしまうのです。しかし、あまり小さなヴィオラには、先に述べたような限界もあることも承知しなければなりません。

 少々乱暴な言い方になりますが、ヴィオラの大きさは、演奏技術によって克服できますが、ヴィオラの大きさからくる限界は、これ以上はどうしようもないのです。事実、世界的なヴィオリストを見ると、小さな体格の人が小さなヴィオラを使っているということはありません。大きなヴィオラをテクニックを駆使して弾きこなしています。
具体的な寸法
 これまで、「大きなヴィオラ」、「小さなヴィオラ」と書いてきましたが、さてこれが何センチかと聞かれると、答えるのは難しいです。それこそ演奏者によっての幅があるからです。

 ただ、やはり40cm以下のヴィオラからは、「ヴィオラの音」は出にくいものです。そしてこのような小さな楽器を弾いていると、ついつい音を出そうとして力んで弾いていることが多くなってしまうのです。良いヴィオラは、力まなくても音が出ます。
 私の考えるヴィオラの限界大きさ(下限)は、日本人用の場合40.5cmです。そしてできれば41cmの大きさが欲しいところです。プロの場合には、これよりもさらに0.5cm多く欲しいところです。
 アメリカのあるヴィオラ製作コンクールでは、出展楽器の制限として、「42cm以上」という条件があるくらいなのです。アメリカは、ヨーロッパ以上に大きな楽器を好む傾向にあるので、これを基準と考えるのは無理がありますが、それでも「小さなヴィオラの限界」ということは分かっていただけることでしょう。


 ここではヴィオラの大きさについてのみを書きました。しかし当然の事ながら、ヴィオラの性能は単純に大きさだけで決まるものではありません。例えば、長さが同じヴィオラでも、横板の厚みの違いによっても容積に差が出ます。またそれ以上に大切なのは、製作の技術です。これが悪ければ、「ヴィオラの大きさ」を議論する以前の問題なのです。

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