デジタルカメラによる赤外線撮影 その3

2010年8月19日 ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

これまでに書いた赤外線撮影レポート

 私はこれまでにも下記のレポートに掲載していますように、デジタルカメラによる赤外線撮影の弦楽器への応用とその可能性を試行錯誤してきました。赤外線撮影はニス影響をあまり受けずに、木材の表面を写すことができます。よって楽器の割れの状態などを的確に把握することができるのです。また消えかかったラベルの撮影などにも大きな効果を発揮できることを確認できました。
 
デジタルカメラを使った、赤外線によるラベル撮影
赤外線仕様デジタルカメラでの撮影


 前回のレポートにではCanon EOS Kiss Digital一眼レフデジタルカメラを赤外線撮影仕様に改造したという事を書きました。このカメラによって赤外線撮影が比較的簡単に、そして高品質に行うことができるようになったのです。しかしあえて難点をあげるならば、赤外線撮影時のフォーカス合わせが難しいことでした。というのは、通常の可視光撮影でのピント位置と、赤外線撮影時のピント位置ではずれがあるからです。よって赤外線撮影時には、フォーカスを微妙に変えながら、何枚も撮影せねばならなかったのです。

旧型Kissデジカメ

 

赤外線撮影カメラ改造依頼

 デジタル一眼レフカメラに詳しい方ならばご存じのことですが、最近の一眼レフデジカメの大きな進歩は「ライブビュー撮影機能」と「高感度」、「動画撮影機能」です。特にライブビュー機能と高感度性能は、赤外線撮影においても大きなメリットなのです。そこで新型のCanon EOS Kiss X4を赤外線撮影モデルに改造してもらいました。以前に初代 EOS Kiss Digitalを改造してもらったときよりも、性能は大きくアップしているにもかかわらずカメラ自体の実売価格が下がっているので、その点はとても助かりました。
 改造依頼は前回とは別の会社にお願いしました。光映舎という、天体撮影関連や虫の目レンズ撮影で有名な会社です。ちなみに「赤外線改造」には大きく分けると2種類あって、一つは「天体撮影用のHα透過フィルター改造」と、もう一つは「干渉赤外フィルター IR760改造」です。「赤外線」と一口に言っても、撮影する目的の波長が微妙に違うからです。今回は「干渉赤外フィルター IR760改造」をお願いしました。天体撮影用の「Hα透過フィルター改造」にしてしまわないよう注意してください。
 価格はCanon EOS Kiss X4(レンズセット)が実売価格約7万円弱で、赤外線改造料金(デジカメ持ち込み)が73,500円でした。デジカメが安くなったとはいえ、新品のデジカメを「赤外線撮影専用(普通の撮影はできなくなる)」に改造してしまうことは、ちょっと勇気が必要です。

新規導入 赤外線撮影カメラの使い勝手

 これまで使っていた旧 EOS Kiss Digital赤外線改造デジタルカメラでは、次のような工程をとって撮影していました。
1-1. まず可視光カットフィルターを外し、通常のカメラと同じように構図を決めて、次にフォーカスを合わせる。
1-2. 可視光カットフィルターを装着する(ファインダーを覗いても真っ暗)
1-3. とりあえずシャッターを押して赤外線撮影をして、露出の確認をする。何回かシャッターを切りながら、適正露出をさぐる。
1-4. フォーカスを微妙に移動させながら、フォーカスが合っている写真が写るまで何度かシャッターを切る。

 このように、これまでの撮影ではシャッターを切ってはその写りを確認しながら、何枚も撮影をして最善の露出とフォーカスの1枚を生み出さなければなりませんでした。デジタルカメラなので、フィルムと違ってその場でチェックができるので、贅沢な悩みであるのですが・・。

 さてそれが今回新規導入したEOS Kiss X4改造カメラでは次のような手順で撮影が可能になりました。
2-1. ライブビューボタンを押すと、背面の大型液晶モニタにリアルタムで赤外線映像が映るので、構図を簡単に決定できる(下写真がその状態)。
2-2. 背面の液晶モニタで映っている撮影対象を、さらに拡大して映すことができるので(拡大フォーカス機能)、フォーカス合わせが簡単かつ完璧にできる。
2-3. 露出はオートでもOKなので、あとはシャッターを押すだけ。

新型Kiss赤外線デジカメ

 今までよりも簡単に赤外線撮影が可能になりました。画素数も増えたのでより細かなところも写るようになりましたが、肝心の赤外線撮影の能力自体はこれまでと同じくらいのようです。


赤外線撮影の一例

 今回導入した新EOS Kiss X4改造カメラで撮影したチェロです。肉眼でも見える修理跡ではありますが、赤外線撮影をすることでニスの色にごまかされず、よりはっきりと確認することが可能になります。弦楽器の修理・研究への利用の可能性は非常に大きいです。

赤外線撮影一例

 

 

 次はラベルの透過撮影事例です。この楽器のラベルは、オリジナルラベル(?)の上に二重に貼られたものです。通常の観察や撮影では、下層のラベルを読むことはできません。しかし今回の赤外線撮影カメラによって、下層のラベルをほぼ読むことができました。薄く写っている文字が下層のオリジナル(?)ラベルです(ラベルの全景写真を掲載することはできませんので一部分のみの写真になります)。

ラベルの透過

 

撮影照明の注意点

 最近はLED照明が普及しています。当工房も積極的にLED照明を導入しています。しかし赤外線撮影においてLED照明でライティングしてしまうと、「あれ?暗いな・・」という事になってしまうのです。これまでの写真撮影の経験から、「照明の明るさと露出」はある程度体にしみこんでいるのですが、「見えない赤外線」は可視光の明るさとは別問題なのです。LED照明の赤外線の成分は非常に少ないので、LED照明でライティングしたからと言って実際にはライティングしていないに等しいです。
 それでは赤外線撮影において有効な照明は何かというと、赤外線成分を多く含んでいる通常のタングステン電球です。さらに理想的なのは、「不可視・準不可視タイプの赤外線ライト」です。リモコンの赤外線照射部分をたくさん集めて照射する「見えないライト」です。

 

戻る