マイスターのQ&A

ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 佐々木朗

:駒の修正方法を具体的に教えてください。

以前のQ&Aでも書きましたように、不安のある方はご自分では行わずに、こまめに私の所へお持ちください。しかし、正しい方法さえマスターしてしまえば、それほど危険で大げさな作業でもありません。

ケースから楽器を取り出すごとにチェックする
 演奏前に楽器をケースから取り出すときには、必ず駒の角度をチェックしてください。これは演奏前の「儀式」と考えてください。
 チェックの方法は前号に書いてある通りですが、注意すべき事は写真のように、ネックが左手になるような向きで楽器を持つことです。この時にもしも駒が前向きに傾いていた場合には、次の修正作業を行ってください。

作業体勢を整える
 駒の修正作業をする上で一番重要な事は、きちんとした体勢で作業をすることです。この時のポイントをいくつか書きます。
 *足のかかとをキッチリと床に着けて椅子に座る。この座る姿勢が不安定では、事故の起こる可能性が大きくなってしまいます。
 *楽器の肩当てを外し、太股の上にピッタリと楽器を置く。この時にお腹と楽器のエンドピンとが密着していなければなりません。

 *もしも作業に不安があるようでしたら、安全策として下の写真のように駒の前後(指板とテールピースの下)に布を敷くことをお勧めします。こうするともしも駒が倒れてしまった場合でも、テールピースで表板を割ってしまうことはありません。

手の頬の部分で楽器を押さえる
 写真を見てください。この様に手の頬の部分で楽器を押さえることで、楽器がガッチリと固定されます。
 駒の傾きを修正する作業は、弦は全く緩めないで行います。この時駒は弦で押さえつけられて、簡単に動かない場合もよくあります。そこでつい力を入れすぎた場合には、逆に駒が一気に大きく動いてしまって、倒れてしまう事故が起きてしまうのです。
 この様な事故を防ぐのがここ述べている「手の添え方」なのです。こうすると、もしも駒が大きく動いてしまった場合でも、手の頬が楽器に固定されている為に、手がはじき飛ばされてしまうことがなくなるのです。

駒の上端を摘んで、少しだけ引く
 写真のように、駒の上端を摘んで手前に引いてください。この時手の頬の部分は、決して楽器から浮かせないでください。
 この時のコツは、一気に傾きを修正しようとしないことです。少し動いたら駒の傾きをチェックし、足りないようでしたら同じ操作を何回か繰り返してください。


 この様な普段からのチェック、修正作業の癖を付けることで、駒のトラブルだけではなく、その他の部分のちょっとした異変にも敏感に気付くことができるのです。「楽器の声が聞こえるようになる」と言っても、大げさな表現ではありません。

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