少し前の事ですが、別の工房にて弓の調整を行っていた演奏者の方が、私の工房にいらっしゃいました。
その方の話によると、前の工房にて弓先に鉛の重りを入れて、バランス調整を行ったとの事でしたが、違和感を感じていらしたそうなのです。
私は断言します。「論外の調整ですよ」と。
なぜ「論外」と言い切れるかというと、弓先への鉛によるバランス調整は、静的な重心の調整はできても、動的な竿のモーメントバランスを大きく崩してしまうからなのです。
力のモーメントは、距離の二乗に比例してしまうのです。この科学的な根拠を知らずに、安易な重心操作をしてしまう「非科学的な技術者(もちろん悪気があって行っている人は一人もいません)」も、残念ながらとても多いのです。
何度でも言いますが、技術とは科学の上にのみ成り立ちます。同じ事は演奏にも言えて、演奏とは科学の上にのみ成り立つのです。ただし「学問」と「科学」とはちょっと違います。科学者(例えば大学教授)が楽器の事を知っているか?というと、全く知っていませんから。
演奏家の中にも、少数派ではありますがきちんとした科学的な考え方をもって演奏を追求されている方もいらっしゃいます。そういう演奏家の音は素晴らしいですし、説明の説得力もあります(・・・ただそういう方って、とても真面目で張ったりをかまさないので出世?はしないのですよね。)。
関連記事:
- 弓先まで力が入る、意識を持続できる、とは
- 乾燥しているからって、安易に楽器の内部の湿度だけ高めたらダメです
- 楽器や弓を選ぶ上で「音色」を意識しすぎるのは良くないです
- 良くない楽器を使っている人、判っていない人に限って、「音色」の話をします
- バイクで立ちゴケした