先日、以前に私の工房にて弓を購入してくださった方が、今度は楽器の全調整を行って、「こんなにも変わるのですね!」と喜んでくださりました。
その楽器を弾いている時に、「弓の毛が竿に付いてしまっているようですが、大丈夫ですか?」と質問されました。
大丈夫です。というよりも、それが正しい弾き方なのです。真の意味での性能の高い弓(重くないのに、弓竿の腰が強い)は、弓の反りを残した状態(馬毛をあまりパンパンに張らないで)で演奏します。だから弓がつい付く、下向きの力のベクトルが自然と生まれるのです。
さらに、実性能の高い弓(腰が強い)ほど、無意識に、自然に、筋肉の硬直無しに、グッと腕の重さを弓に掛けたボウイングが可能になります。だから、ますます馬毛は弓竿に付くのです(決して弓竿でゴリゴリ擦っているわけではありません)。
すなわち、弓竿の腰が弱いから付いているのではなくて、強いからこそ付く(付ける)のです。
馬毛が竿に僅かに付いている(または付いているように見える)のですが、弓竿の腰が強い弓は、弓竿でゴリゴリ擦る感じにはなりません。あくまでも馬毛で弦をドライブしています。だから心配は無用です。
逆の事も言えて、弓竿の腰がペコペコの弓ほど、馬毛が弓竿に触れないような演奏をします。馬毛を竿と平行になるくらいパンパンに張って弾いたり(弓が跳ねます)、その逆に圧力を掛けずにスピードだけで弾く演奏を行ってしまうのです(ダイナミクスが足りず、音も擦れます)。
演奏の様子を見ただけで、弓の実性能も見えるものです。
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