楽器という物は、エネルギー増幅装置ではなく、エネルギー変換装置です。
すなわち、楽器の善し悪しは、エネルギーの変換効率で決まると言っても、まんざら大げさな話ではありません(もちろんそれ以外の要因もあります)。
「エネルギー」というとピンとこないかもしれませんが、例えば、演奏者が感じる「音が飛ぶ楽器」とかは、この事なのです。
例えば、少し前の事ですが、私の工房にてチェロをお売りしました。その方が長年使っていた古いチェロは、構造的に良くないので、エネルギー効率がとても悪いのです。弓の圧力をかけて楽器を弾こうとしても、その力が楽器に吸い込まれてしまって、音が内に吸収されてしまうイメージです。
たまたま運良く良いチェロを入手できたので、その方に勧めました。そして2本の楽器を弾き比べてみると、面白いくらい、楽器の発音の仕組みの違いが判りました。まるで音のベクトルが(またはエネルギーのベクトルが)両楽器において真逆に出ているように感じました。
お売りしたチェロは、弓に圧力をかけて弦を弾いた途端、音が外へ、ポーンと発音されます。まるで、一の操作に対して、一の応答があるイメージです。一方、これまで使っていたチェロは、弓の圧力が底なし沼にズブズブと吸い込まれてしまうかのように、発音への手応えが少ないのです。固い道路の上をランニングするのと、砂浜をランニングする違いと説明した方がわかりやすいかもしれません。
上記の2本のチェロは、まさにエネルギー効率の違いを表した見本と言えるでしょう。
関連記事:
- 製作・調整をする上での重要なポイント
- 私が現実的と思える、個人導入可能な再生可能エネルギー装置は
- この「トランポリンの思考実験」とても大事です
- 人類にとって最大の発明は?
- なぜ部品を軽く加工するのか?