今日、私の工房のお客様のヴァイオリニストの方から、ご自身のコンサートのBDを頂きました。

 その映像をじっくりと観察して、直ぐに感じたのは、「演奏の理」です。すなわち、理にかなった運動をしているから、演奏が素晴らしいのです。

 その「理」の主な事を具体的に述べると、次の運動が見えます。

  1. 弓がブレていません。フロッシュから弓先まで、まるで弓の方が吸い付いているかのような運動をしています。これは私が常々主張している、「性能の高い弓」の特長なのです。事実、この演奏者の方も、私の工房にて弓を購入してくださっています。
     弓が震えないので、ポコポコと摩擦力が途切れずに、力強いフォルテや、芯のあるピアノが綺麗に出来るのです。それは演奏のダイナミックレンジ(=表現力)にも等しいことです。
  2. 楽器を構える理論が理にかなっているので、楽器がブレていません。だから理想的な摩擦力が維持できるのです。
    特に女性ヴァイオリニスト〔ヴィオリスト)は、(非力な)力で楽器を構えようとするあまり、楽器を斜め方向に構えて肩で保持している人が多いのです。しかしこのBDの映像では、きちんとした「てこの原理」と「体幹(背骨)のコントロール」による、理想的な保持をしているのも、明らかにわかります。だから楽器がブレないのです。
  3. 理にかなったヴィブラートをしています。それによって楽器が縦方向に暴れずに、弓の摩擦力が途切れないのです。

 上記の要素は、たとえ音を消して再生したとしても、きちんと「見え」ます。素晴らしい演奏には、きちんとした運動論的な理由があります。感情とか気持ちだけでは、良い演奏はできません。
 以前にも同じ事を書いた事がありますが、「音を聴かずに、運動を見る」事も重要な勉強方法だと思います。

 演奏とはスポーツと、基本的には同じです。理にかなった運動こそが、良い結果を生むことが出来るのです。

 「宇宙の物理の法則の下で」→「理にかなった道具を使い」→「理にかなった考え方のもとで」→「理にかなった運動(=演奏)を行うことで」→「理想的な複数通りの摩擦力を生み出すことができ」→「その摩擦力を利用して数通りの弦の振動を生み出し」→「その弦の振動がエネルギー変換されて数パターンの空気の振動を生み出し」→「その数パターンの空気の振動を組み合わせることで音楽を構成し」→「その音楽という名の物理振動を受けた聴衆という名の生物が、生理的反応を引き起こし」→「その生理的反応を、自分自身の持っている感情論だとか芸術論に当てはめ」→「感動する」

 これが演奏。

 スポーツと異なるのは、「聴衆という名の生物の生理的反応」を対象としていることです。

 補足になりますが、上記の3つの要素って1から順に関連しています。

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