最近、マキタの電動工具とか、車の試乗レビューなどのYouTube動画を観る機会が増えています。
ご存じの方も多いと思いますが、私もずいぶん前から、「弦楽器技術の映像表現」という可能性について模索していました。本格的な撮影機材もたくさん導入しましたし、「弦楽器製作工程BD」などもその成果の一つです。また、様々な技術的な(自分で言うのも何ですがとても貴重な)映像も撮影してきました。
ところが、それらの映像は、私が本気で「技術」を表現しようとしたあまり、一般視聴者からすると面白みのかけらも無いのです。単なる技術映像です。だからYouTubeのアクセス数も、数100~2,000アクセス程度です。
最近様々なYouTube動画を観ていて、それらのほとんどが「視聴者ウケを意図的に狙って制作されている」という事に、「なるほどなあ」と納得(感心)しているところです。
これまでにも工房にいらしたお客様から、「もっと、楽器や弓の弾き比べとか、弦の音比較とかの動画を掲載してください」みたいに言われたこともあったのです。
しかし、色々な撮影を実際に行ってきた私だから言えるのですが、弦楽器の本質って、動画で表現することはほぼ不可能なのです。
例えば、私が以前に行った「性能の高い弓と、低い弓とで弾いた音のダイナミックレンジの比較実験」では、弾いている自分側としては、想像していたとおりの天と地ほどの差を感じました。ところが、それを横で聴いていると、確かに大きな差は感じましたが、「天と地ほど」とまでは感じません。
さらにそれを測定器で測定しいたところ、その差は数値的にはたったの3dB程度でした。
さらにそれらを動画で撮影して、その上、視聴者が性能の低い再生装置で再生して、音の違いがどれほど伝わるというのでしょうか?
例えば、現在在庫のカントゥーシャ作のチェロの音は、私が「これまでに出会ったチェロのトップレベルの凄い音」と自信をもって言い切ることのできる凄い音の楽器なのです。だからその凄い音の紹介動画も掲載しています。しかし、残念ながらその動画を観て興味を持ってくださった方は一人もいません。こんな凄い音なのに・・・。おそらく、動画からはその凄さが伝わらないのでしょう(または、肝心の楽器の響ききの方を意識してもらえずに、演奏の好みとか批判に走る人がほとんどなのかもしれません)。
YouTubeなどで、楽器や弓の本質を表現することなんて、不可能なのです。そのくらい微妙な事なのです。弦楽器は家電とは違うのです。
もしもYouTubeでウケたかったら、「イタリアン オールド楽器 VS 新作楽器」とか、「フレンチオールド弓、、、」とか、「弦を比較してみました」みたいな、例の低レベルなテレビ番組のような、いかにも受けの良さそうな単純な動画を掲載すれば良いかもしれません。しかし、そんな素人動画、なんのためになるでしょうか?
もしも楽器や弓の本質を知りたかったら、私のホームページやブログを読んでいても絶対に判りません。工房にいらして、実際に話をしたり、私の勧める楽器や弓を購入したり、調整をしたりしてみてください。
文字に出来ないもの、動画で表現できないもの、それが「本質」です。または「本物」です。
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