よく「松ヤニは何往復塗ったらよいのですか?」みたいな質問を受けることがあります。
しかし、言葉だけで答えられるほど単純なものではありません。馬毛の表面の状態、松ヤニの種類、その人の癖、楽器の特性などによって、変わってきますし、その状況は日々変化するからです。
例えば、毛替え直後で馬毛表面に松ヤニがあまり付いていないときには、松ヤニを何往復もして、松ヤニを付けます。
しかし、馬毛表面の松ヤニは徐々に堆積していきますので(これも使う人によって癖がありますので、そうとも言い切れませんが)、半年も使っていると松ヤニ過多の状態になっていることが多いのです。このような松ヤニ過多の状態は、馬毛表面が真っ白になっています。
この様な、松ヤニ過多の状態、すなわち馬毛表面が白くなって(馬毛の色はクリーム色っぽいです)、粉っぽくなっている状態だと、弦と馬毛の摩擦力が低くなってしまい、弦の引っかかりが無くなってしまいます。だからさらに松ヤニを付けてしまい、悪循環に陥ってしまうのです。
馬毛と弦との摩擦力はどうやって生ずるのかというと、馬毛のキューティクルで弦を引っかけているわけではありません。馬毛の表面は、ほぼツルツルしていると考えても良いです。だから松ヤニを全く付けていない馬毛で楽器を弾くと、キューティクルの向きとは全く関係なく、どちらの向きに対しても、ほとんど摩擦力が生まれません(全く音は出ません)。
それではどのようにして摩擦力が生まれるのかというと、ツルツルした弦の表面に、松ヤニの粒子が点々とくっ付くのです。そうすると、それまでツルツルだった馬毛が、紙やすりの表面のようにザラザラになるのです。この点々に付着した松ヤニの粒子が、弦に引っかかって、摩擦力を生むのです。
しかし、松ヤニを付けすぎると(馬毛表面が真っ白)、松ヤニ粒子が点々ではなくて、ビッシリと付いている状態になってしまいます。こうなると松ヤニ粒子同士が滑り合って、摩擦力が低下してしまうのです。
松ヤニの付けすぎの馬毛は、演奏しているときに楽器表面に雪が降ったかのように松ヤニで白くなります。このような場合には、そろそろ毛が毛替え時と考えるべきでしょう。
補足:言葉での説明が難しいのは、こういう事を書くと、神経質な方は逆に松ヤニを付けるのが少なすぎる方もいらっしゃるのです。だから、ご自分で判断せずに、専門家に直接相談するようにしてください。