毎年冬の乾燥期になると、必ずと言って良いほど割れ修理依頼が飛び込みます。現在も3本の楽器を修理中です。

 さて一概に「割れ」と言っても、その原因には種類があります。今回は特に表板の割れについて簡単に分類して説明してみましょう。

1.物理的衝撃による割れ
 これは一番判りやすい割れです。ようするに「破損」です。楽器をぶつけたり、倒したり、落としたりして出来てしまう割れです。

2.表板の木材自体が収縮することによる割れ
 乾燥によって木材は縮みます。もしも響板が単体で存在した場合、若干の収縮くらいで割れることはありません。問題なのは、違った木材との収縮差による歪みなのです。
 これが一番顕著なのは、表板の下ナット(テールガットが乗っている黒い部分)と表板の接合部です。表板が乾燥すると木目と直角側(すなわち左右方向)が縮みます。しかし黒檀でできている下ナットは、とても密度が高い木材なので殆ど縮みません。だからそれらの収縮差で、表板が割れてしまうのです。
 本来ならば製作時に、後年のその収縮差を見越して、表板と下ナットの接合部(ナットの左右)に隙間を空けて製作するものなのです。しかし技術不足の製作ではその隙間が少なすぎて、後年割れてしまいます。

3.楽器自体の変形による引っ張り割れ
 冬期の乾燥割れで多いのがこの「引っ張り割れ」です。例えば側板が左右に広がるように変形すると、表板が左右に引っ張られて割れてしまうのです。
 もちろん通常の楽器の変形程度ならば、表板が割れてしまうことはありません。しかしたまたま表板の繊維に弱い部分があったり、または楽器の変形が想像以上に大きかったりすると、表板は割れてしまうのです。正確に言うと、上記(2.)の表板材の縮み+楽器変形による左右の引っ張りによって、ダブルの力が掛かってしまいます。
 ちなみに、なぜ楽器が変形するのかというと、製作の精度と木材の乾燥度合いの二つの要因があります。木材を5年程度しか乾燥しないで製作してしまうと、楽器の変形が大きくてトラブルの要因となってしまいます。木材は環境の良い場所で、最低でも10年以上自然乾燥してから製作するのが理想です。
 また楽器の製作精度でも大きな差が出ます。高度な製作というのは、何から何まで全てにおいて違うのです。この場でそれを説明するのは不可能です。

4.ニカワの接合部分の割れ
 これは純粋な意味での割れとは違いますが、楽器の響板中央部分の接合部分(接ぎ)が割れてしまうこともあります。

 このように弦楽器のトラブルはとても複雑な要因と絡み合って起きます。しかし、それと辛抱強く付き合っていくのも弦楽器なのです。

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