私が工房を開業してからの30年間の間に、私の工房でチェロを購入してくださった方は何人かいらっしゃいます(ヴァイオリンの様に数は多くはないです)。その中にはプロのチェリストの方もいらっしゃいます。
先日にも、あるアマチュアチェロ奏者のソロ演奏で、「周りからも音の評判が良かったです。これも佐々木さんの楽器と弓のセレクト、調整、Zauberplatteのおかげと思います」みたいなお礼メールをいただきました。
ただ、ふと思い返すと、ヴァイオリンの購入者と、チェロの購入者では感想とか反応とかのタイプが異なるのです。もちろん全員が全員というわけではないのですが、ほぼ、その傾向があるのです。
そのチェロの方の傾向というものを書いてみます。これは何も私の工房のお客様だけのはなしではなく、一般的なチェロ奏者の傾向と言えるでしょう。
1.箱鳴りしているような、性能の低いチェロを気に入って使っている
圧倒的に多いのがこのタイプです。箱鳴りのボケた音を豊かな低音と思い込んで使用しているので、楽器の買い替えの必要性を全く感じていません。それどころが、そんな(不健康なチェロの)音を良い音と信じ込んでいるのです。
それではなぜ結果的に私の工房でチェロを買い替えたのかというと、最初に私の工房で性能の良いチェロ弓を購入して、「自然な圧をかけた理にかなったボウイング」というものを実感し、それで私の理論的な説明も含めて、自分がこれまで使っていたチェロがいかにダイナミックレンジが狭い箱鳴りの音だったかを理解(実感)したからなのです。
ようするに、自分の感覚(好み)だけだったら、絶対に私の主張するような良い音は判りませんし(それどころか拒絶することでしょう)、チェロも購入しません。
2.私がチェロの買い替えを勧めても、拒絶する(信用してもらえない?)
いくら私の工房にて良い弓を購入して、「理にかなったボウイング」を行うことができるようになっても、私がいくら楽器の買い替えを勧めてもなかなか信用してもらえません。なぜなら、チェロ奏者(プロ、アマチュア共)って「チェロの音は自分が一番判っている」みたいな自意識が高い方が多いので、チェロを弾かない我々を「門外漢」くらいにしか思っていないのかも知れません。
あるプロのチェロ奏者の方には、何年も「この楽器ではあなたの才能が勿体ない」と言い続けて、ようやくチェロを買い替えさせました。その数年後、「周りの奏者からも、何て製作者のチェロ? って音を褒められる」との感想を頂いています。
3.楽器の購入後も、最初の内は反応が芳しくない
上記のプロ奏者の方は、最初から「素晴らしい!」って気に入ってくださったのですが、多くのアマチュア チェロ奏者の場合、大体は「低音が出ない」とか「発音が鈍い(重い)」とか、否定的に感じる方が多いみたいです。
しかしそれが良い音のチェロの音なのです。そこを根底から勘違いしているので、なかなか私の主張を信用してもらえません。ようするに、自分の考えている良いチェロの音と、私が絶対的な自信の下お勧めして購入してくださったチェロで、価値観の違いが生じて不完全燃焼みたいな時期があるのです。
4.音を出すしくみが判った途端、購入してくださった楽器への評価が爆上がり
言葉では書けませんが、良いチェロって(ヴァイオリンでも)、弓で弦を発音したときに楽器からの抵抗(反発)があるのです。それを性能の良い弓で「自然な圧力」をかけて冷静な発音をする事で、擦れの無い芯のある音が出るのです。楽器を「ドライブ(加振)」するイメージです。
これを理解できると、私がお売りしたチェロがいかに性能が高いのかが理解できます。また周りの方(ちょっと離れて聴いている方)からも「良い音」って褒められるので、さらに自信が持てるようになります。
そして最終的に、「以前のチェロの音を良いと思っていたとは、今は信じられない」みたいに言われます。
何が言いたいの可というと、自分の価値観って大したものでは無いという自覚が必要なのです。チェロの方って、(チェロに対して)自負心が高すぎます。もっとヴァイオリンの方のように他人の意見に耳を傾けてみてください。
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