もう随分長いこと私の工房にいらしているお客様なのですが、私がいらっしゃる度に「弓の性能が低いので(価格は高い弓なのですが)性能の高い物に買い替えるべき」と言っていました。ご本人も「分かってはいるのですが・・」とは言っていましたが、少し前に私の工房でようやく弓を購入されたのです。
 良い弓を使ってみて、初めて私のこれまでの言ってきた意味が分かったようです。「もっと早く購入すべきだった」みたいな事も言っていました。
 さて今回書くのは、「良い弓前提の調整」についてです。私の工房で、「この弓では本格的な調整できません」みたいな事を言われた方も多いはずです。それは決して意地悪で言っているのではありません。当工房での弓の購入と引き替え条件で引き受けるという意味でもなのです。その点はどうか誤解の無いようお願いします。
 良い弓とは「理にかなった摩擦力を生むことのできる」弓なのです。逆の事を言うと、性能の低い弓では(例え高価な弓でも)、原理的に「理にかなった、効率的な摩擦力」を生むことは不可能です。これは演奏技術の問題ではなく、物理の原理的な問題なのです。
 調整とは、弦に対する「ある摩擦力(弦への加振・ドライブ)」を前提として行います。その摩擦力(弦への加振・ドライブ)が低ければ、高度な調整も不可能なのです。
 もちろん「低い性能の弓を前提としたセッティング」というのも存在するかもしれませんが、お金をかけて自分の楽器のポテンシャルを下げて、そして自分の演奏の基準を下げて満足する人がいるでしょうか?(知らずにそうしている人はとても多いのですが)
 さて、先日のお客様も弓の購入をスタートとして、楽器の高度な全調整(部品も良いものと交換)、ケースも良いものに買い替えました。結果として楽器は見違えるほど違った次元に行きました。調整した自分で言うのも何ですが、「どうだ!」って感じです。これこそが元々その楽器が持っていたポテンシャルだったのです。
 結局、私が何が言いたいのかというと・・。
・弓の性能がすべての大前提になります。
・私の工房で「この弓の性能では本格的な調整はできません」と言われた方、誤解なさらないようお願いします。
・楽器の本来の性能とは、高度な調整によって生まれます。
・調整とは楽器購入のおまけではありません。きちんとした調整技術こそ、貴重で高いものです。
・きちんとした調整をできるところで、楽器を相談して買いましょう(最重要)。
 皆さん、もっと「調整」のために楽器店に通って下さい。絶対に見えてくるものがありますから。ちなみに私の工房では基本的にお断りしていますので(全ての人を受け入れていたらきりがないのです)どうかご理解ください。

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